ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー大江戸学園:教室ー
由真「ねえ、輝。今日の瓦版に書いてあったのって本当?」
輝「んんっ?どの記事のことだい?」
由真「一面記事のヤツ。ほら……辻斬り犯の正体が眠利さんだって書いてあったじゃない」
輝「あーはいはい。あれはまあ、そういう噂があるけれど本当なのかっ!?……っていう感じだね。」
由真「ん?」
輝「つまり、目下調査中」
由真「なぁんだ。私、てっきり噂が本当だったのかと思ってびっくりしちゃったわよ」
輝「いやぁ、おいらもぶっちゃけ眉唾もんだとおもってるんだけど……今回、他にいいネタがなくってさぁ」
由真「瓦版づくりも大変なのねぇ」
輝「ああでも、たしか柳生さんのところで放課後稽古してる連中も、シオンさんにやられたとかいってたらしいぜぃ」
由真「えっ、本当!?ねえ、小鳥遊、どうなのよ?」
二人の話しを聞くとはなしに聞いていたら、由真が話を振ってきた。
悠「いや、おれはなにも……むしろ、いま初めて聞いて驚いたくらいだし」
由真「何よ、ソレ。小鳥遊に聞いても無駄って事じゃない」
悠「……悪かったな、無駄足を踏ませて」
なぜか責められたことに首をかしげながらも、おれは少しばかり不愉快な気分に眉を顰めさせていた。シオンが辻斬りなんて、そんなことあるわけない。道場の稽古仲間にそんなことをいっているヤツが居たのかと思うと、胸がムカムカするのだった。
ー大江戸学園:道場ー
十兵衛「小鳥遊、随分と上達したな」
稽古の最中、いつものように一通りの型稽古を終えてひと息入れていると、師匠に声をかけられた。
悠「え……そうっすか?」
正直、延々と同じ型稽古をくりかえしているだけだと、上達したといわれても実感がわかない。
十兵衛「自分ではまだ分からないだろうが、強くなっているぞ。それは私が保障しよう。」
悠「……本当ですか?」
十兵衛「もちろん、本当だ。剣の腕は、きつくて地味な基本をどれだけ繰り返したかで決まるものだ」
悠「そんなもんですか」
十兵衛「うむ、そんなものだ」
師匠に力強く頷かれると、半信半疑だったおれもそんな気がしてくる。でも……向こうで十人余りを相手取って一歩も引けを取っていない吉音を見ると、そんな気も失せてしまう。
悠「(おれもあんな風になれるんだろうか……。)」
十兵衛「なれるぞ、小鳥遊」
悠「えっ?」
どうも、吉音を見やったおれの目に内心が出てしまっていたらしい。
十兵衛「修業を積めば誰でもなれる。焦らず休まず諦めず、だ」
悠「近道しないのが近道、ですか」
十兵衛「そういうことだ――まあそれでも、噂の辻斬りくらいになら、いまのおまえでも勝てるだろうな」
師匠の口から辻斬りの話題が出たことも驚いたけど、もっと気になったのは、その口ぶりだ。まるで、辻斬りの正体が誰か分かっているような言い方に聞こえたぞ。
悠「……師匠も、辻斬りがシオンだと思ってるんスか?」
十兵衛「む、シオンが辻斬り?なんだ、それは?」
悠「そういう噂が流れているとか……だから、師匠もその噂を信じているかと思ったんですが……」
十兵衛「……それはつまり、自分はシオンに勝てるつもりだと、という意味か?」
悠「それは無いっす」
十兵衛「辻斬りがシオンだと思っていたなら、小鳥遊にも勝てるだろう、などというわけがなかろう」
悠「ですよね」
十兵衛「少なくとも、いまの時点では、な」
悠「……いや、おれはいつの時点でも勝てる気はしませんけど」
冗談めかした師匠に、おれは苦笑いするしかなかった。横で素振りをしていた稽古仲間が、ふっと手を止めてこちらを見ていた気がして、なおのこと面映しかった。
由真「ねえ、輝。今日の瓦版に書いてあったのって本当?」
輝「んんっ?どの記事のことだい?」
由真「一面記事のヤツ。ほら……辻斬り犯の正体が眠利さんだって書いてあったじゃない」
輝「あーはいはい。あれはまあ、そういう噂があるけれど本当なのかっ!?……っていう感じだね。」
由真「ん?」
輝「つまり、目下調査中」
由真「なぁんだ。私、てっきり噂が本当だったのかと思ってびっくりしちゃったわよ」
輝「いやぁ、おいらもぶっちゃけ眉唾もんだとおもってるんだけど……今回、他にいいネタがなくってさぁ」
由真「瓦版づくりも大変なのねぇ」
輝「ああでも、たしか柳生さんのところで放課後稽古してる連中も、シオンさんにやられたとかいってたらしいぜぃ」
由真「えっ、本当!?ねえ、小鳥遊、どうなのよ?」
二人の話しを聞くとはなしに聞いていたら、由真が話を振ってきた。
悠「いや、おれはなにも……むしろ、いま初めて聞いて驚いたくらいだし」
由真「何よ、ソレ。小鳥遊に聞いても無駄って事じゃない」
悠「……悪かったな、無駄足を踏ませて」
なぜか責められたことに首をかしげながらも、おれは少しばかり不愉快な気分に眉を顰めさせていた。シオンが辻斬りなんて、そんなことあるわけない。道場の稽古仲間にそんなことをいっているヤツが居たのかと思うと、胸がムカムカするのだった。
ー大江戸学園:道場ー
十兵衛「小鳥遊、随分と上達したな」
稽古の最中、いつものように一通りの型稽古を終えてひと息入れていると、師匠に声をかけられた。
悠「え……そうっすか?」
正直、延々と同じ型稽古をくりかえしているだけだと、上達したといわれても実感がわかない。
十兵衛「自分ではまだ分からないだろうが、強くなっているぞ。それは私が保障しよう。」
悠「……本当ですか?」
十兵衛「もちろん、本当だ。剣の腕は、きつくて地味な基本をどれだけ繰り返したかで決まるものだ」
悠「そんなもんですか」
十兵衛「うむ、そんなものだ」
師匠に力強く頷かれると、半信半疑だったおれもそんな気がしてくる。でも……向こうで十人余りを相手取って一歩も引けを取っていない吉音を見ると、そんな気も失せてしまう。
悠「(おれもあんな風になれるんだろうか……。)」
十兵衛「なれるぞ、小鳥遊」
悠「えっ?」
どうも、吉音を見やったおれの目に内心が出てしまっていたらしい。
十兵衛「修業を積めば誰でもなれる。焦らず休まず諦めず、だ」
悠「近道しないのが近道、ですか」
十兵衛「そういうことだ――まあそれでも、噂の辻斬りくらいになら、いまのおまえでも勝てるだろうな」
師匠の口から辻斬りの話題が出たことも驚いたけど、もっと気になったのは、その口ぶりだ。まるで、辻斬りの正体が誰か分かっているような言い方に聞こえたぞ。
悠「……師匠も、辻斬りがシオンだと思ってるんスか?」
十兵衛「む、シオンが辻斬り?なんだ、それは?」
悠「そういう噂が流れているとか……だから、師匠もその噂を信じているかと思ったんですが……」
十兵衛「……それはつまり、自分はシオンに勝てるつもりだと、という意味か?」
悠「それは無いっす」
十兵衛「辻斬りがシオンだと思っていたなら、小鳥遊にも勝てるだろう、などというわけがなかろう」
悠「ですよね」
十兵衛「少なくとも、いまの時点では、な」
悠「……いや、おれはいつの時点でも勝てる気はしませんけど」
冗談めかした師匠に、おれは苦笑いするしかなかった。横で素振りをしていた稽古仲間が、ふっと手を止めてこちらを見ていた気がして、なおのこと面映しかった。