ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー女子寮長屋近辺ー

逃げる犬、追いかけるおれ達。さすがに、犬と追いかけっこではこちらが不利だ。唯一、おれ達が有利なことといえば……

悠「新、そっちに回りこめ!」

吉音「了解っ!」

追手側は二人いるってことだけだ。だがおれと吉音はうまく連携し、少しずつ犬を追い詰め、囲い込んでいった。

そして……

吉音「さあ、もう逃げられないよ。観念しなさいっ」

ついにおれ達は、犬を袋小路に追い込むことに成功したのだった。

悠「いい子だからおとなしくしろ。その、口にくわえたものを返すんだ」

犬『キュウ……』

犬は怯えた声を出す。

吉音「ふっふっふっ……悪党なら、例えワンコが相手でも、容赦はしないんだからね」

そういって、吉音はじりじりと犬ににじり寄る。

悠「新……顔が怖いぞ」

どっちが悪役か、わかりゃしない。と、その時だった。

吉音「うにゃっ!?」

吉音と犬のあいだに、すばやく割って入った者がいた。

はじめ「…………」

悠「さ、佐東?!」

吉音「いっちゃん!?」

佐東だった。彼女は犬をかばうように、刀を抜いておれたちと対峙する。

はじめ「弱いものいじめは、感心しない」

悠「あー?」

はじめ「……お行き」

佐東がそう促すと、犬は脱兎のごとく走り去った。犬なのに兎とはこれいかに。

吉音「あーもう、いっちゃった!せっかく追い詰めたのに!」

はじめ「いじめ、かっこ悪い」

悠「そうじゃないんだよ。あのですね……」

おれは佐東に、これまでの事の次第を、ことこまかに説明したのだった。

はじめ「…………」

悠「……というわけだ。理解してくれたかね?」

はじめ「……悪かった。ボクの早とちりだったようだ。」

吉音「もー。せっかく犯人……じゃなかった、犯犬を捕まえられそうだったのに」

はじめ「すぐにこの落とし前はつけさせてもらうよ」

悠「すぐにって……どうやって?」

佐東は、くんくんと鼻を動かす。

はじめ「こっち」

吉音「えっ? こっちて……」

はじめ「おおよその方向は、匂いでわかる」

吉音「におい……?」

目が不自由な分、他の感覚が鋭敏になってるってことなのかな。それにしても、これじゃ佐東の方が犬みたいだ。

悠「それにしても……おおよその方向が分かってても、これじゃあ……」

この人ごみの中じゃ、もうあの犬がどっちにいったかなんてわからないよなあ。

はじめ「大丈夫。上空から広域探索する」

吉音「上空?」

カツ『キッキッキッ』

その時、佐東の頭の上にコウモリが降りてきた。

はじめ「……わかった。ありがとう」

佐東がそういうと、コウモリは空に舞い戻っていく。

吉音「なにあれ……コウモリ?」

はじめ「カツって名前。ボクの剣魂」

吉音「へー……マゴベエとどっちが賢いかなぁー」

悠「それより、何かわかったのか?」

はじめ「ああ。目標を捕えた。こっちだよ」

吉音「ナイス、いっちゃん!」

佐東に案内されて、おれたちはまた走りだす。
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