ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

吉音「あー、やっと退屈な授業が終わったー。もー、疲れたー」

放課後となり、おれたちは小鳥遊堂へ帰って来たわけなのだが。あいも変わらず、吉音は授業に対する不平をぶーぶー述べている。

悠「よく言うよ。新は授業中、ずっと寝てるじゃないか」

吉音「そ、それでも疲れる時は疲れるのっ」

……寝ていても疲れるのなら、その疲れはどうすれば取れるというのだろう。

悠「寝疲れとでもいうのか?」

吉音「とにかく目安箱を確認しなきゃねッ。はたして今日は何かはいってるかなーと……おっ」

入ってた。かわいいキャラもの封筒に入った投書だ。

悠「ずいぶんと可愛い投書だな」

吉音「む。この封筒は、今月の『花うめ』の付録についてたレターセットのヤツだね」

ああ、『花うめ』っていうのは吉音がよく読んでいる少女漫画雑誌で……

悠「いや、別にそんなのはどうだっていい。問題は中身の方だろ。」

吉音「えーと中身は……おー、やっぱり同じ付録の便箋を使ってる」

悠「そういう意味じゃねーよ……」

吉音「わかってるよ、何が書かれてるのかって事でしょ。えーと、なになに……」

吉音は便箋に書かれた内容を、食い入るように読んでいる。

悠「……」

吉音「ふむふむ……。なるほど、それは深刻だねぇ……」

悠「ひとりで納得してないで、何が書かれているのかおれにも教えてくれよ。」

吉音「下着ドロだって」

悠「は?」

そんな怪しげな単語だけで、何をどう理解しろと。

吉音「女子寮で、干してあった洗濯物がよくなくなってるの。下着ドロかもしれないから、調べてくれって」

なるほど、投書主は女子寮の寮生か。いかにもこんな封筒と便箋をつかいそうだ。吉音から書状を受け取り、おれも目を通してみる。

悠「女子寮ねえ…………ん?ここって吉音の住んでるところじゃないのか?」

吉音「うん。そういえばそんな話、なんとなく聞いたことあったカモ」

悠「聞いてて放置してたのかよ」

吉音「だってその時は、よくある話しだー、くらいにしか思わなかったんだもん」

悠「…………」

よくあるのか、そういう話し。

吉音「だけど実際、依頼されたらもう放っておけないよね」

悠「具体的に、どうするつもりなんだよ」

吉音「基本は見張りかな。悠、がんばって!」

悠「……は?」

吉音「は、じゃないよ。見張りをするの。どろぼうが来るまで」

悠「ちょっと待て。おれに24時間、女子寮に張りこめってか?」

吉音「だっていつくるかなんてわからないんだもん。仕方ないでしょ」

悠「仕方ないって、あのなぁ……」

吉音「悠ならできるよね♪」

悠「無茶言うなっ!」

おれにだって、小鳥遊堂の運営という大事な仕事がある。そんな訳の分からない仕事は御免こうむりたい。

吉音「むぅ……。じゃあ悠は、今後も女子寮からぱんつが盗まれても平気だっていうの?もしかしたら、今度はあたしのぱんつが盗まれちゃうかもしれないっていうのに、いいの?」

何が「いいの?」なんだか。

悠「だからって、24時間はいくらなんでも無謀だろ。おれを過労と睡眠不足で殺す気か」

吉音「まあ……さすがにそれは」

ごにょごにょと口ごもる吉音。まさか本当に本気でおれに24時間張り込ませる気ではなかったのだろうか……だが、近い事をさせる気ではいたらしい。くわばらくわばら。
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