ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー高座屋ー

真留「傷ひとつありません。技術を持った鍵職人であれば、錠にあんな傷をつけずとも、ひらくことが出来るのです。なのに、金庫の錠には見てくださいと言わんばかりの傷がありました。これはどういうことでしょう?」

従業員A「盗人の腕が悪かったんじゃないですか?」

真留「ふむ。ではとりあえずそれは置くとして……この錠は、それはそれで重要ですが、蔵自体のデジタルロックを通過していることも忘れてはいけません」

従業員B「だから、店員の誰かにまぎれて中へ……」

真留「つまりあわせると、白昼堂々蔵に入ったあげく、ヘタクソな鍵開けで、中のものを取り出して逃げた、しかもそれが三回ですか?続いたということですね」

高座屋「ばっ、バカな!お前達は一体何をしていた!お前達の目は節穴か!」

真留「まぁまぁ、怒るのは少しだけ早いですよ」

店員の失態に激怒する高座屋を、真留が芝居がかった調子でなだめる。

悠「……」

真留「そうです。それはさすがに考え難いほどに不注意の連続です。ですがこんな考え方は出来ないでしょうか。犯人は最初から蔵も金庫も開くことが出来た。その上で、あえて錠に傷をつけた……鍵職人に罪をかぶせるために、どうですか?コレが一番シンプルで、、全部がうまくおさまるように思いませんか?」

高座屋「確かに……そうだがせ……しかしその条件にあてはまるのは」

真留「当てはまるのは?」

高座屋「俺と、ここにいる店員だ」。こいつらは蔵のデジタルキーも、金庫のアナログキーも自由に扱える立場にある!お前らか!お前らが俺の金を盗み出していたのか!」

今度こそ高座屋の怒りが激発した。店員たちもそれに反論する。

従業員A「証拠は!我々が犯人だという証拠はどこに!?」

真留「では逆に聞きますが、皆さん泥棒が入ったと思われる時間、何をしていたのですか?蔵の入り口のデジタルロックなら、通行記録が残っているでしょう。最後に通ったのは誰ですか?それは何日の何じですか?」

従業員A「う……ぐっ、それは……」

しかし瞬く間に言葉に詰まる。これはもう認めたも同然の行動だ。

悠「……」

従業員A「これまでか……」

従業員B「う、うおおおお!高座屋ァ!」

高座屋「おおおっ!?」

吉音「ちょいやさーっ!」

従業員B「あぐぅ!う……うぅ……」

従業員C「わぁぁああああっ!」

真留「スタートが遅すぎますよ!ていやーっ!」

ガラッ八『ギョッ』

従業員C「ギャッ!」

吉音「……もうおしまい?であえであえー!とかないの?」

悠「まぁ、店主が被害者だからな。これで終わりっぽい」

吉音「ううんー不完全ねんしょうー」

バトルにならないのならそれに越したことはない。吉音には申し訳ないが我慢してもらおう。

高座屋「なぜ店の金に手を出した……鍵も預けてやっていたのに!」

従業員A「あ……あんたの人使いの荒さには限界が来てたんだ。バイト料も全然だし。どうせやめるなら、その前に借り返してもらおうと思っただけだよ」

悠「そういう気持ちはわからんでもないが、盗みを働いて、濡れ衣まで着せようとして、さすがに擁護は出来んぜ」

従業員A「そんなものなんて求めてない。もう弁解する気もないよ……」

高座屋「フン!当然だ。言いたいことがあるなら正面から堂々といえばいいんだ。フンッ!」

真留「あなたも少しは気をつけないと、またこんな事件を起こされますよ」

高座屋「よ、余計な御世話だっ!事件が事件が解決したのなら、うー、さっさと、こいつらを連れていけっ!」

真留「……そうですね」




ー奉行所ー

事件は解決した。他の店員に聞いてみたところ、高座屋は横暴で、決して評判の良い人物ではなかった。事件を起こした店員らも、奪った金には一切手をつけておらず、嫌がらせの意味合いが大きかったようだ。店員の大きな入れ替わりもあるだろうし、少しは高座屋も答えただろうか。

悠「一件落着か」

真留「恐れ入りましたか。どうですか私の推理力は」

ひと通りのことが片付くと、真留は大きく胸を反らせた。ちなみに吉音は何か不満だったらしく、ひとりで剣道場の方へ行ってしまった。

悠「どの辺りから目星を?」

真留「あの店員たち、最初から態度が怪しかったのです。シロウトが妙な事に手を出すからです。」

悠「さすがは真留だな。先輩として見習わせてもらうよ」

真留「えへへへっ、そんなに褒めてもなにもでませんよえへへへ」

悠「でも鍵職人を脅したのはちょっとやり過ぎだったかも。あとで一緒に謝りに行こうな」

真留「うぐ、それは、私もちゃんと考えていましたよ。本当ですよ」

悠「はいはい、別に疑ってないから」

確かに下級生とは思えない聡明さと行動力。

真留「本当なんですからねっ!」

これであとは強引に突っ走るところと、すぐに天狗になるところがなければなぁ。
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