ｰ職人長屋ｰ

真留「ふふふん、やっぱり思った通りなのです」

職人「あ、あなたが開けないとしょっ引くとかいうから開けたんですよ?」

真留「はい。素晴らしい腕前に感服しました。やっぱりあなたは犯人ではありませんね」

職人「本当ですか!信じてくれるんですね!あぁよかった……」

職人はヘナヘナと座りこんだ。

真留「ひとつ聞きたいのですが……他の鍵職人でも、こんな感じにキレイに開けられますか?」

職人「ええまぁ。俺たちは一緒に研究をしてますから。今困っているのは興味を持ってくれる人が少ないところですよ。大旦那方は買っていくばかりで支援しちゃくれませんしね。我々が卒業したらどうなることか」

真留「あー、そのへんはまぁ、頑張ってもらうとして」

緊張の反動か、職人は一気にペラペラと喋り始めたが、真留がソレを遮った。

悠「……」

真留「いくつもの方面から脅しをかけられ、目のまえで睨まれながらの鍵開けチャレンジ。それでもこの人は、外側に傷一つ付けることなく、ひらいてみました」

悠「つまり高座屋の錠に、あんなにはっきりとした傷がつくのはおかしい……だな」

真留「もしかすると、腕の悪いのが強引にガチャガチャやったのかもしれませんが……それよりは、何者かが罪を押し付けようとした可能性の方が、遥かに高いとはおもいませんか?」

そして、それらの条件を全て満たせる人……いや人たちが、存在する。

悠「よし、高座屋に戻ろう。新!」

吉音「んぐぐ……まって……もうちょっと……」

吉音はまだ秘密箱と格闘していた。金属製で、怖そうにも壊せない。職人さんは鍵だけじゃなくて、こういう娯楽品の研究もしているんだろう。

悠「それは買ってやるから。高座屋に戻ったら立ち回りがあるかもしれないぞ」

吉音「えっ?じゃあいくいくー!あっ、この箱はちゃんと買ってね」

悠「へいへい……」

職人「あ……どうも、まいどあり」

真留「ふふん。この私を騙そうとしても無駄だという事を、思い知らせてやりますよ。」





ｰ高座屋ｰ

悠「た」

真留「たのもーう!」

悠「……」

従業員A「あれっ、あなた方は奉行所の。どうされたんですか?」

真留が大きな声で乗りこむと、すぐさま見たことのある店員が飛んで来た。

真留「例の金庫破り、調査が進んだので報告をしに来たのです。私たちは先に蔵の方へ行っていねので、高座屋にもそう伝えておいてください」

それだけいうと、サッと踵を返す。

おれ達も遅れないよう、その後を追った。

従業員A「あ……ちょっと?あのぉー!」




高座屋「まさか……もう犯人の目星がついたのか?」

おれ達に遅れること数分、疑い半分の面持ちで高座屋がやって来た。その後に店員も何人か続いている。

真留「最初から怪しいと思っていたのです。その容疑が濃厚になった、ということです」

高座屋「なんと。じゃあ犯人は?」

食い付きの良い高座屋に、真留は鼻を高くしながら語り始めた。

真留「コレを見てください。つい先ほど、鍵職人に開いてもらったものです。信用できないのなら、またここで実践していただいても構わないのですが」

真留は短い会話の間に苦もなく開かれてしまった錠を掲げる。