ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

というわけで、早速翌日、放課後。

真留「高座屋の金庫の鍵を作った人は、もう調べがついています。今日はそこへいきます……が、その前にちょっとだけ買い物をさせてください。」

悠「今から?急ぎなのか?」

真留「はい。きっと役に立つはずなのですよ」




ー職人長屋ー

道すがら真留のいっていた買い物を済ませ、その足で鍵職人のいる長屋までやってきた。なんでもこのあたりは職人さんの街で、アナログ技術を研究して残そうという人が集まっているらしい。

悠「こんなところがあったのか」

真留「ここが高座屋の鍵を作っている職人の家なのです。たのもぅ!たのもーぅ!」

職人「は、はいっ、なんでしょうかっ!」

真留の呼びかけに応じて、声を上ずらせ肩を縮めた男子生徒が応対に出てきた。高座屋からも連絡が言ったのか……相当脅されたらしいな。

真留「こんにちは。私たちは奉行所から来た者です。もう聞いているでしょうが、高座屋が盗みに入られました。鍵のかかった金庫の中から盗まれているので、一応、あなたからもお話を聞かなくてはならないのです」

職人「俺は盗みになんてはいってませんよ!自分で作った鍵を開けに行くなんて、そんな誰でも怪しむようなこと、するはずないでしょう!」

真留「そんな理屈はどうでもいいのです。必要なのは真実だけ。やったのか、やっていないのか、だけです」

真留のそっけない態度に、職人はさらに震えあがった。真留もこんな言い方をすることがあるんだな。

職人「何度でも言いますけど、俺は何もしてないんですよ!」

真留「ではこれで証明して見せてください。」

と、真留が取りだしたのはアナログ錠前。ここに来る途中、雑貨屋さんで買ってきたもの。全体の形は高座屋のものに似ているが、全くの別物だ。

職人「証明って、どうすれば良いんですか?」

真留「もちろん開けるんです。本物の鍵を使わずに」

職人「はぁ!?開けるって、これどこのものですか!ウチのじゃないですよ!?」

真留「ついさっき、そこで買ってきたものです。どこのでもありません」

職人「ますます怪しいじゃないですか!おかしいですよ!」

真留「いいから開けなさいっ!これが開けられなかったらしょっ引きますからね!」

職人「ひぃぃ!そんな理不尽なぁ」

悠「真留……どういう意味なんだ?」

真留「私の予想が正しければ、これで答えが出るのです。さぁ速やかに開けなさい」

職人「わっ、わかりましたよ……開けますからねっ」

職人は、なにやら先のギザギザしたピンを数本取り出し鍵穴に突っ込んでゴソゴソしはじめた。ちなみに吉音は、商品の秘密箱(特定の手順を踏まないと飽かない箱)に夢中になっていて、静かで助かる。

悠「仮に鍵職人なら金庫を開けられたとして、蔵の出入口の方はどうなんだ?まさか新のいうように穴を掘ったなんてことはないだろうし」

真留「あの蔵は地下にも防壁があります。それを抜いて進むのは、現実的ではないです。別にセキュリティを破らなくても、入る方法なら有るじゃないですか」

店員達のいっていた、人にまぎれて忍び込む、ってのだろうか。それも眉唾な気もするが。

悠「ふむ……」

真留「いま重要なのは、どんな風にして、鍵が開かれるかなのです」

悠「それはどういう……」

職人「ひ、開きました」

悠「はやっ!もうか!」

職人が取りかかってから数分しかたってないぞ?

真留「どれどれ……拝見するのです」

職人から受け取った錠を、マジマジと観察する真留。見事に開けられてる↑、最初からこうだったんじゃないかと疑わせるほどに、傷一つない。……ん、あれ?傷一つない?
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