ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー高座屋ー

悠「なるほど、いい手ですね」

学園は、外見こそ古風だが中身は最先端技術の粋が集められている。セキュリティシステムは整えられていて、鍵はそのほとんどがデジタルだ。中にはネット接続され、定期的にパスが変わるものなどもある。――が、高度な電子技術を持っていれば完全無力になってしまうと、今でもアナログロックを好む人もある。特に要職についてたり、大商人だったりする人の中に多く。

高座屋「だが族はこれを破ってなかの金や帳簿を奪っていった。手がつけられん。」

悠「念のために確認しますが、鍵のかけ忘れなんてことは無いですよね?」

高座屋「ないはずだ。ロックしておかないと、この鎖が緩んだままになってしまうからな」

真留「盗まれた時間はわかりますか?」

高座屋「正確には分からない……が、開店から閉店まで、ほとんど無人になる間だとは思う」

真留「昼間は絶対に隙はなかった?」

高座屋「それは、なんとも……。蔵はここだけじゃないし。毎日中を精査していたわけでもないし……」

真留の質問を受けるにつれ、高座屋の威勢が悪くなってきた。頭が冷えてくれるにつれ、完璧だと思っていた自信が揺らいできたか。

吉音「ねー、この鍵壊れてるんじゃないの?」

ひとり金庫を弄くりまわしていた吉音が声を上げた。

高座屋「そんなはずない。何もなくても定期的に付け替えているし、この前だって開かないのを確認したんだ」

吉音「でもたくさん傷ついてるよ」

高座屋「傷だって……」

高座屋もさすがに気になったのか、眉間にしわを寄せつつ覗きこむ。

吉音「ほら、穴の所と、箱の上と下にも」

吉音の言葉通り、錠の鍵穴とその真上、真下の三か所に、引っ掻いたような傷が集中していた。まるで何か器具でも取り付けたかのような……。

高座屋「本当だ……やっぱりこの鍵は強引に破られたんだな。普通じゃこんな傷はつかないはずだ」

相変わらず吉音の目ざとさは鷹並みだな。

従業員A「とすると疑わしいのは鍵屋では?」

従業員B「定期的に交換される鍵を、問題なく開けるといえば、鍵屋が最も怪しいでしょう」

高座屋「じやあこの蔵の中にはどうやって入ってたんだ?」

従業員B「それは……昼間は出入りもあるし、店員の中に紛れ込むのも不可能じゃないと思います」

吉音「穴掘ったとか!」

従業員C「いやそれはさすがに無理でしょう……」

真留「ふむう……鍵職人ですか」

店員達のいうことも一理ある。確かに鍵職人なら開く道具も技術も持っているだろう。でもどうして金庫破りなんて、一番信用が無くなりそうなことをする?

悠「……」

真留「利に目がくらんだ?仕事が少なくて困った?誰かに脅されて?それとも犯人は別の……」

真留も難しい顔でうーんと唸る。疑うだけの理由はあっても、断定までには程遠い。

悠「……」

真留「とりうえず、今日はここまでにします。鍵職人の方を調べなくては、念のため数日は、人間の見張り置いた方が良いかもしれませんね」

悠「だな、もしなんか他にわかった事があったら連絡ください」

そんな言葉で、高座屋の蔵での調査は一旦お開きになった。




ー大通りー

真留「というわけで、明日は鍵職人のところへ行ってみましょう」

悠「おれたちも一緒でいいのかい?」

真留「かまいませんよ、投書もあったことですし。それに明日は、あくまで事情聴取ですからね」

悠「……真留は、本当に鍵職人が怪しいと思うか?」

真留「それを確かめに行くんですよ。シロの証明とは、クロの証明とは比べ物にならないくらい難しいのです」

悠「了解。確かに全ての可能性に当たってみなくちゃな……」
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