ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー北町奉行所:お白州ー

北町与力「北町奉行、遠山朱金様、ご出座~~!」

お白州に姿を表した朱金は、逢岡さんが着ているような荘厳な衣装に身を包んでいた。大いに違和感がある姿だが、本来朱金はこちらの衣装でいるべき地位にある。一体どちらが「演技」なんだろうか。

朱金「一同、面を上げよ。今日も滞りない進行のために協力してもらおう」

栗田「ちょっとまってください、そんな一方的なっ!ロクな証拠もないのに!」

朱金「静粛に。異論があれば後で聞く」

座らされているのは栗田と用心棒の二人。訴え出たのは例の博徒だ。当然ながら、栗田らが叩きのめされてだけでは気は晴れなかったらしい。

男子生徒C「……」

朱金「栗田、お前はごく一般的な水等に法外な値段をつけ、それと知らせずに飲ませて対価を迫った。その支払いを拒まれると、複数の用心棒を呼びだし、暴力を振るって脅迫した。これに相違ないな?」

栗田「それは違いますお奉行様。我々はまっとうな商売をしています。なのにそこの男が難癖をつけ、代金を払わないばかりか詐欺として訴えてきたのです。本当に裁かれるべきなのはそいつです!」

男子生徒C「なんだと!じゃあこの顔のケガはどう説明する!お前たちにやられたものだぞ!」

栗田「お前が暴れ出したから反撃しただけだ。現に同心の方々が来たときは、倒れていたのは我々で、お前はぴんぴんしていたじゃないか!」

男子生徒C「デタラメをいうな!先に襲ってきたのはそっちだ!」

栗田「いや、そっちだ!」

男子生徒C「この!貴様ッ!」

朱金「もうそのくらいにしないか。ここをどこだとわきまえる。この上騒ぐようなら、全員まとめて問答無用にお縄だぞ」

ようやく朱金が止めに入り、エキサイトしていた二人はそろってバツが悪そうに座りなおした。

男子生徒C「くっ……」

栗田「ふんっ……」

改めて、重々しく朱金が口を開く。

朱金「どちらのいうこともありえない話しではないが、証拠がなければおいそれと信じるわけにはいかない。なにか真実を証明できるものがあるか?」

視線を合わし合うふたり。今度は博徒の方が先に口を開いた。

男子生徒C「商人ならいる。俺はあの時ひとりじゃなかった。金さんという女子と、もう一人お化けみたいな髪した男が乗りこんで来て、俺を彼らから助けてくれたんだ!金さんから話しを聞いてもらえば、本当のことがわかる!」

栗田「金さん?そいつは何年何組でどこに住んでいるヤツだ?」

男子生徒C「それは……初対面だったし、わからない……が」

口ごもる博徒に、栗田は勝ち誇った高笑いを放った。

栗田「ははは!お聞きになりましたかお奉行様!こいつはいもしないチンピラをでっち上げ、我々を貶めようとする悪党なのです!」

また始まった。見ているだけなら面白くて良いけど。これって壮大なドッキリなんじゃないかと思うくらい、みんな同じ行動をとるなぁ。

男子生徒C「金さんは嘘じゃない!本当に助けてもらったんだ!」

栗田「じやあここにその金さんを呼び出してみろ!呼べるもんならな!」

用心棒A「そうだそうだ!呼んでみろ!」

用心棒B「どうした、やっぱりウソだったのか?」

男子生徒C「それは……くぅっ……」

栗田「お奉行さま!こんなお白州でも堂々とウソをつくような男、さっさとぶち込んでしまいましょう!」

朱金「……あぁぁうざってェ。耳元で小バエがワンワン叫きやがってよぉ」

栗田「…………はっ?」

朱金「金さん金さん金さん。テメェらそぉんなに金さんが恋しいのかよ。その金さん、ずぅ~っと前からこのお白州に来てんだよォ」

栗田「な、なにっ……?どこだっ!」

朱金「あの日あの時あの場所で、血よりも紅く、鮮やかに咲き乱れた黄泉桜……コイツを見忘れたとはァ、いわせねぇぞ!!」

栗田「それはっ……ま、まさかっ!?」

男子生徒C「金さんだ!金さんはお奉行さまだったのか!」

だったのですよ。

朱金「おい栗田、この金さんの目と桜吹雪がよ、しっかとテメェの悪事見届けさせてもらってるんだ。テメェこそぬけぬけと出まかせを吐く、太ェ野郎だなぁ。あぁ?何か申し開きできることがあるのか。おら言いてぇことがあんなら言ってみやがれ」

栗田「くくく……くそっ、うぁぁぁあああっ!」

朱金「何回やっても無駄だァーっ!!」

栗田「ぐはぁっ!」

北町与力「取り押さえろ!狼藉者め!」

朱金に蹴り飛ばされ、スッ転んだ栗田を、与力や同心たちが拘束してひっ立てていった。これで彼も問答無用の有罪だ。

朱金「へへ、一昨日きやがれってんだ」

悠「やっぱりお前、この状況を楽しんでるだろ……」

朱金「いんやぁ?偶然だぜ偶然~」

男子生徒C「あ……お、お奉行さま、無礼な口を聞いて申し訳ありませんでした!」

ようやく我に返った博徒が、地面にへばりつくようにして頭を下げていた。

朱金「おうやめろよ気持ち悪い。アン時もいったように、捜査に役立ってみらったんだ、感謝してるぜ」

男子生徒C「いや……それは結果的なもので、その、こっちはただ騙されただけで」

朱金「お互いさまってモンよ。へへっ、これからはバクチで勝ったからっつって、いい気になり過ぎねぇように注意しねぇとな。」

男子生徒C「はは……仰るとおりですね。って、あれ?金さんがお奉行さまってことは、お奉行さまも賭場から栗田に……」

朱金「ハッハッハッ!街奉行も人の子。そういうこともあらァな!」

男子生徒C「そうですね、あの楽しみはやめられませんし。ははは」

朱金「いよぉし、これにて一件落着ゥ~!」




真留「最近忙しくしていると思ったら、アッサリ詐欺に引っ掛かっていたのですか、それも賭け事で大勝ちして、そのまま乗せられてなんて、まったく遠山様らしいことです!」

悠「朱金が真留から逃げていたのはそういうことだったのか」

どうも朱金は、真留には自分がどういう被害にあったのか、打ち明けてていなかったらしい。バカにされ、叱られるのを恐れて内密に調査していたのか。これじゃどっちが上司だかわかりゃしない。

朱金「そいつは違うぜ真留。オレは詐欺師の噂を聞いて、潜入捜査に出向いたんだ。決して、いいようにあしらわれてたわけじゃないんだぜ。」

真留「はいはい。これからはちょっとは控えてくださいね。街奉行が借金をする、なんてことになったら目も当てられませんから」

朱金「信じろってば。これからも何回か引っかかるかもしれないが、そいつは全部潜入調査だ。勘違いすんなよ」

はぁ、やれやれ
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