ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー栗田の店の前ー

栗田「へへへ、すみませんねぇ、こっちでさ」

男子生徒C「おう。儲かったものは社会に還元しなくてはな!」

揉み手をする栗田に連れられ、ふんぞり返った博徒が大股で店へと入っていく。

悠「あーぁ、本当に誰かを見ているのと全く同じだわ。アレ」

朱金「うっせ。今ンなこといってもしゃーねーだろが」

おれたちのあとから姿を現した栗田と博徒。二人は先日と全く同じ道をたどり、同じ店舗へと入っていった。ここまで見せつけられては、この後起こる事件に疑いは持てない。

悠「……」

朱金「頭が悪ィのか、それともものずぇ自身があるのか、どっちだ……」

最初から乗りこんでも意味は無いので、壁の外に身を潜めつつ、中の様子をうかがう。

男子生徒C「じゃあこのオススメ?の蕎麦で頼む。」

栗田「はい了解です。少々お待ちください」

漏れ聞こえてくる声を聞いていると、博徒の注文を受け、栗田が店の奥へ下がっていったのがわかった。他に話声は無い。やはり今日も客はひとりだったようだ。

朱金「北町の奴らに調べさせたんだが、ここはいつもは飯屋なんて開いて無いらしい。他に客もいねぇようだし、こいつはカモがかかった時だけ飯屋に変わるんだぜ」

悠「じゃ、共犯がいるってことか」

栗田はパティシェの作った特別なアイスなど言っていたが、さすがにそれを信じる気は無い。アイスに限らず、全ての料理は他で仕入れてきて、温めるだけで誤魔化しが利く。ただ朱金が言うカモがかかった時だけ店が開いているというのは、単独では困難だ。

朱金「そいつが自信の裏付けかもな」

逆に自分たちが狙われていないか、警戒しながら中の様子をうかがい続ける。今は料理が運ばれてきて、それを博徒が食べている最中らしい。

悠「……」

朱金「うぬ……結構時間かかるな。アイツひとりでのんびり食いやがって。特に旨くもなかったヤツの蕎麦すら恋しく……ぬぬぅ」

悠「食べ始めたってことはもうすぐだ。騒ぐなよ」

彼らに見つかっては元も子もない。

男子生徒C「なんだと!?そんなバカな話しがあるかっ!」

朱金「おっ、来たか?」

栗田「そういわれましても、これが当店のつけている値段なんですよ」

男子生徒C「そんなことは聞いていない。聞いていないものは納得できないな!」

店の中からふたりの争う声が聞こえてくる。やっぱり栗田、あの博徒からも法外な金額を要求したらしい。

悠「どうする?乗りこんで一緒に追求するか?」

朱金「いや、このまま待つ。オレたちはあまりに早く引き上げすぎた」

悠「それをいわれると……」

提案したのはおれだ。もともと良い金じゃなく、後ろめたかったこともあって、早く関わりを立ちたかったんだが……。

栗田「じゃああんたが食べたもんはどうするんだ?食材や、料理人の苦労を取り返すことが出来るのか?」

男子生徒C「定食として当たり前の値段なら払う。だがそれ以上は知らん!そもそもいくらバクチで勝ったとはいえ、そんな大金は持ってないしな」

栗田「ふーん、お金が無いと」

ん?なんだ?

用心棒A「テメェ金も持ってねぇのにウチで飯食ったのか?」

用心棒B「食い逃げしようたぁ太ェ野郎だな!」

男子生徒C「ぐあっ!なっ、なにをするんだっ!」

用心棒A「大人しく払うか!払えなきゃウチから借金ということにするしかねぇな!」

男子生徒C「やっ、やめろぉっ!」

落としか聞こえないので、正確なところは分からない。でもこの展開はまずいのでは……。

悠「朱金、いくぞ」

朱金「へっ……これ以上に無い立派な理由が出来たな」
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