ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー北町奉行所ー

朱金「守備はどうだった?」

北町与力「栗田なるものが経営する飲食店は、どうやら登録されていないようです。データにはありません」

真留「現地も見てきましたが、やっぱりそれらしく営業しているお店はありませんでした」

朱金「ふーん。つまり偽装の可能性が高いってことか。もしかしたら、カモを見つけた時だけに開いてるのかもな。フン……こいつはクロだ。問題はどうやって尻尾を掴むかだな……」

真留「あの、遠山様、これはなんの調査なのですか?」

朱金「別に大したことじゃねぇよ。もうお前らの手は煩わせない、忘れていいぜ」

真留「むぅ……そう、おっしゃるなら」





ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

今日も目安箱には、ボッタクリ被害を訴えるものが入っていた。栗田相手かどうかは分からないが、そういう事件は続いているらしい。あのときはおれも朱金のツキに乗せられて、浮かれていたんだろう。あんな賭場の中で泣きついてくる男を信用するなんて、馬鹿げていた。ものの値段の付け方に文句をつけるのは難しいし、どこから糸口をつかめるんだろう……。

朱金「よう、悠」

悠「やあ、朱金」

そろそろ来るような気がしていた。いつも同じような登場の仕方だしな。

朱金「栗田がクロなのは間違いない。あとはしょっ引ける証拠を掴むだけだ。ひとまずイチのところへ話しを聞きに行こうぜ」

悠「いきなりだな。想定内だけど。」

幸いと言っていいのか、今日も吉音は寝込んでいるらしい。だからおれひとりで動く分には、特に問題は無い……。

朱金「じゃ行くぞ」

悠「了解。仕度する間くらいは待ってくれよな」




ー賭場ー

また賭場に来てしまった。いくら学生しかいないとはいえ、こんな、不良の溜まり場に何度も足を運ぶことになるとは、いやぁ、怖い怖い。

朱金「おーいイチ、いるかぁ?」

はじめ「……もう出せる金は無いよ」

朱金「そういうなよ。今日は別に打ちに来たわけじゃねぇんだ。ちょっくらイチに聞きたいことが……んっ?」

早速切り出そうとした朱金に、素早く佐東が身体を寄せ、壁際へと追い立ててきた。

はじめ「……」

朱金「ど、どうした?」

はじめ「以前ふたりが絡まれた男が、また来てる」

朱金「何?まさか、栗田か……?」

佐東が杖で示した先には、あの軽薄な男、栗田の姿があった。特に勝負に参加するわけでもなく、ウロウロと賭場内を歩き回っている。

はじめ「最近来始めたばかりの男で、いつも負けたと言っては他人にたかっている。こちらでも警戒はしていた。物乞いの類……?」

栗田、賭場の方にもマークされていたのか。ただ外で何をしているのかは把握していなくて、実際に接触のあったおれたちに聞いて来たってところか。

朱金「……イチ、おめぇ……そんなに長くしゃべれたんだな」

はじめ「……もういい。さようなら」

朱金「ああ待て待て!悪い意味で言ったんじゃないんだって!」

そうでなくても、わざわざ言わなくていいことだろ……せっかく協力してくれそうなのに。

はじめ「……それで?そっちも聞きたいことがあったんじゃ?」

あれ、特になんとも思ってないぽい。見かけほど剣呑な人でもないのかな……?まぁいいけど。

悠「アイツは巧みにそれと知らせず、高額なメニューを注文させる、いわゆるボッタクリ犯なんだよ。ここをうろついているのは、きっと勝って気をよくしている相手を狙うためだと思う」

朱金「……マ、実際オレがそうだったからな」

はじめ「ふぅん……物乞いじゃなくてペテンか」

男子生徒C「うおおおお!きたぁぁぁぁぁぁっ!!」

そんな話をしていると、突然奥から野太い声が響いた。

朱金「おっ?今日の大当たりはアイツか?」

悠「勝った奴ってのは、みんな同じような声を出すのかな」

あの雄叫び、まるで朱金のリプレイだ。とみている間に、それまでアテもない様子だった栗田が、スイッと雄叫びの男へ寄っていく。

悠「行ったな……ターゲットを決めたらしい」

朱金「ああ。オレたちは店の外に出て、ヤツを監視する。イチ、ありがとな」

はじめ「……別に。こっちのためでもあるし」

朱金「そうか……じゃあまたな」

おれと朱金は、栗田が出てくるのを待つため、先に外に出て身を隠すことにした。
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