ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー栗田の飯屋ー

栗田「どうも、お待たせしました。」

朱金「おう、はえーじゃねぇか」

そんな詮無い雑談をしているうち、ソバ定とかつ丼が運ばれて来た。蕎麦にてんぷら、漬物。特に突っ込みどころのない定食だ。おれのほうのかつ丼も、漬物と味噌汁付き。

悠「……普通だな」

朱金「……ま、そこに何か期待してたわけじゃねーしな」

悠「……だな、いただきます」

暫し蕎麦をすする音と米をかきこむ音が響く。

朱金「……本当に普通だな」

悠「……すごく、かつ丼です」

見た目と同じく、普通の蕎麦とかつ丼だ。これじゃオチがつかないじゃないか。

朱金「んん~、なんかもの足りねぇが、こんなもんかな。どうせバクチで負ける奴だしな」

悠「その偏見もどうかと思うけど。マズくはないしいいんじゃない?」

栗田「お水はどうですか?」

朱金「ああ、もらおうか」

栗田「メニューには無いんですが、デザートもお出しできますよ。いかがでしょう」

朱金「なんだ気が利くじゃねぇか。どんどんもってこい!」

おれたちの会話が聞こえていたのかな、栗田が急に気を利かせてきた。……といっても、出てきた水もアイスも特徴のないものだったけれど。

悠「ふー……満腹」

朱金「まぁこういうサービスしてるんなら、そうそう潰れはしねぇだろうな……さぁて飲み食いさせてもらったし、そろそろ帰るか。おい栗田、勘定頼むぜ!」

栗田「はい、只今!えーと、お二人まとめて二万四千円です」

悠「……………はっ?」

朱金「二千四百円な。ほいほい」

栗田「いえ、二万四千円です。桁が違いますよ。」

朱金「すまん、もう一度いってくれ」

栗田「おふたりで、二万四千円になります」

朱金「……ふざけてるの?」

栗田「いえ、至って真面目ですが?」

朱金「んじゃそのバカ高ぇ値段はどういうこった!あの蕎麦には金でも練り込んであったのか!あぁん!?」

どういうことだ、食べた感じはごく普通の定食&かつ丼とアイスのように感じたが……?

栗田「失礼ですね、ご自分の味音痴を棚に上げて」

朱金「んだとぉ!?」

栗田「あなた方が追加で飲んだ水。あれは外から取り寄せたミネラルウォーターを、独自の方法で熟成させたモノ、デザートのアイスクリームも最高のパティシエに作っていただいた芸術品。それを理解できなかったのはあんた達の責任でしょう」

朱金「ぱっ、ぱっ、ぱてせーが作ったからって高く何のか!熟成したって水は水だろが!」

栗田「じゃあ巧妙な画家が描いた絵も、単なる紙と絵具だというわけですか?自分が理解できないものは無価値とでもいうんですかぃ?」

朱金「くっ……てめぇ、口の立つ野郎だなっ……」

これは、計算ずくのぼったくりだ……。賭場で調子が良くて、いい気になっている人を狙ってたんだな。しかもメニューに無い、値札のついていない品を後から取らせるとは、やり慣れている感じだ。

悠「金さん、もう飲み食いし終わった後だし、こっちは完全に乗せられてしまった。ここから巻き返すのは難しいって、お前も良く分かってるだろ」

朱金「クソっ……わかったよ、くれてやらぁ!」

栗田「おおっと……へへへ、まいどありがとうございます!」



ー表通りー

朱金「ちっくしょー、このオレをペテンに掛けやがって、せっかく情けをかけてやったのによ!」

悠「もう今回は諦めていいんじゃないか?もともとまっとうな手段で得た金じゃないんだし」

朱金「うぬぅ……まぁ……そうかもしれねーが。いや、あいつはきっと他の誰かからもだまして巻きあげているに違いねぇ!絶対にお縄にしてやるからな!」

悠「……そうだな。そっちの方は注意しておいた方がいいかもしれないな」

おれたちは諦めるにしても、他に同じような被害者が出ることは避けたい。目安箱にもそういう投書があったし、逢岡さんに報告して注意喚起してもらおうかな。
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