ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー賭場ー

朱金「よし、今日はこの辺りで引くとするかな。調子に乗り過ぎるてもよくねぇ。稼ぎは十分だし、反動が怖ェからな」

男子生徒A「おい、勝ち逃げかよ!」

朱金「そういうこった、また頼むぜ。」

男子生徒A「クソっ、夜道は背中に気をつけろよ!」

定番だけど、金さんの正体を知っていたら、間違っても吐けないセリフだな。当然本気じゃないし朱金も気にしちゃいないだろうけど。

朱金「よっしゃー、悠、帰るとすっか。真留も土産があればちったぁ大人しくなるだろ」

悠「はいはい。楽しめたようでなにより」

怒られたくないんだったら、もう少しまじめに仕事をするのが一番だと思うけどね。

「もしもし」

朱金「ん?オレか?」

「ずいぶん女神さまに気にいられてたみたいですね。ちょっとあやからせてもらえませんか?」

朱金「なんだよ。見ねぇ顔だがテメェは誰だ」

栗田「あっしは栗田ってモンでさ。今日はまったくツキがなくてスッテンテンになっちまいましてね。このままじゃぁちっと首がまわらなくなりそうなんですよ」

朱金「おう、そりゃ災難だが、しかたねぇだろ。儲かるヤツがいりゃぁ損する奴もいる。それがバクチってもんだ」

栗田「へへ、そいつはわかっちゃいるんですがね……ひとつ、ウチの店でいくらかおこぼれを頂戴できませんか」

朱金「ウチのって、何の店なんだ?」

栗田「へい、しがない飯屋で」

宝くじが当たった人には、いろんな営業がかかると聞くけど、これもそういうものかな。損した分を、本業で少しでも取り返そうという魂胆だろう。

朱金「んーまぁいいか。勝ちっぱなしってのも気持ち悪ィし、負けた奴への施しがあっても良いよな!」

悠「お、おいおいもうちょっとおだやかに」

朱金「こんくらでなんて気にしてねーよな!なぁ?」

栗田「はは……こちらからお願いしている手前、なんとも」

朱金「ほれみろ。悠はいつも考えすぎだぜ」

朱金のヤツ、いつもよりさらに気が大きくなっている。くだらないことでやらかさなきゃいいけどな……。

悠「……」

朱金「よっしゃ、んじゃその店へ案内しろ。こいつもツレだからな、ふたりだぞ!」

栗田「はいはい、ありがとうございます~」

朱金「金なら有る。悠の分も奢ってやるからドンと構えてろィ」

悠「お前なぁ……」

苦笑いする栗田に連れられ、おれと朱金はその飯屋というところに案内されたのだった。




ー栗田の飯屋ー

朱金「ほー、ここがお前の店か。結構でけぇじゃねぇかよ」

栗田「先輩から受け継いだだけですけどね。ご注文は、何にいたしましょう」

朱金「別に何でもいいんだが……んじゃこの一番上の、蕎麦定食で」

悠「おれはかつ丼」

栗田「蕎麦定食とかつ丼ですね。承りましたー」

やや軽薄な印象だが、店は普通にやっているらしい。栗田は注文を取ると、店の奥へ消えていった。

朱金「こんな店があるんだったら、バクチなんかに手を出さなけりゃいいのにな」

悠「そっくりそのまま熨斗つけて返すぞ。朱金も自分の職を考えてみろ」

朱金「バクチってのは稼ぐためにするんじゃねぇ、遊びでやってんだよ!」

悠「いやそんな力強く言わなくても……」

朱金「カラオケでもゆーえんちでも同じだ。オレたちゃ楽しい時間に対して、金を出してんだよ」

ダメ人間まっしぐらじゃないか。逢岡さんと比べる訳じゃないけど、よくこれで北町持ってるもんだ。上司がダメほど部下が団結するとか?

ただこの店、他に客の姿が無い。経営的にあまり芳しくないのかも……。
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