ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

まず新聞紙……ここじゃ瓦版か。まぁそういったものを濡らしてよく絞り、適当な大きさに切って畳の上に撒く。そうすることで細かなホコリを濡れた紙にくっつけて、畳の目に沿ってまとめて掃き取る。畳は湿気を嫌うから、天気のいい日に風通しをよくしてからするのが大事。そうやってマメに掃除をしてやれば、いつまでも綺麗なまま使えるのだ。

うん、今日も綺麗に掃除が出来たなぁ、お客さんが居ないから……。

平良「相変わらずの繁盛っぷりだな」

悠「長谷河の旦那……まあ、ご覧のとおりですよ」

平良「旦那って……まぁいい、今ひとりか?」

悠「ですけど?」

平良「そうか……」

悠「はい?あ、もしかして新になにか御用っすか?」

平良「いや、そうじゃないんだ。奥の席いいか?」

悠「はい、どうぞ」

身をかがめてのれんをくぐると、長谷河さんは隠れるように外から見えづらい位置に腰掛けた。席に着いてからも、しきりに辺りを気にしている。いつも堂々としている長谷河さんらしからぬ雰囲気が気になった。御前試合の準備絡みで、なにかあったんだろうか。

平良「…………」

悠「どうかされたんすか?いつもと様子が違うみたいですけど……」

平良「ああ、実はな……今日は折り入って悠、お前に頼みたいことがあって来たんだ」

慎重に言葉を選びながら、長谷河さんは話しを始めた。悪党を震え上がらせる鬼と呼ばれる長谷河さんが声を潜め、頼みたいことがあるという。よほど重要なことなんだろうと、緊張からおれは思わず息をのんだ。

悠「おれにできることならいいんですけど……」

平良「大丈夫だ、お前ならできる……いや、お前にしか頼めないことなんだ」

悠「なんすか?」

平良「……単刀直入にいおう。パフェを、買ってきてくれないか?」

悠「……あー?」

平良「……パフェを買ってきてくれと、そういっている」

悠「えっ、いや……その、だから……あぁー?」

平良「わからないヤツだな……向かいのねずみやでパフェを買ってきてくれと、そういっているんだ!」

悠「ちょ、わかった!わかりましたけど……」

平良「……おかしいか?」

悠「いや、そういうわけじゃ……」

平良「取り繕わなくてもいい、そういうのが似合わないってことぐらい自分でも分かっているんだ…………悠、お前は甘いものは好きか?」

悠「まあ、人並み程度には……」

平良「私は大好きだ。黒蜜や餡など和風の上品な甘さから、チョコやケーキなど砂糖の塊りのようなものまで……私は甘いものが大好きだ」

捕り物に行くときのような精悍さで長谷河さんは語る。内容はそんな物騒な話ではないけれど。

悠「……」

平良「だがしかし、だ……お前を含めて、周りの人間はそうは思っていないだろう。私はこれでも、自分が周りにどのように思われているか、自覚しているつもりだ。悪党どもを喰らう鬼が、甘味に顔をほころばせる姿など、誰が想像しようものか……」

悠「まあ、確かにそういうイメージはないですね……」

平良「そうだろう!だからな、だからその……あれだ、正面からねずみやにはいるのはだな……なんというか、場違いというか……らしくないというか……」

尻つぼみになっていく言葉と一緒に、長谷河さんも小さくなっていく。いつもの長谷河さんからは考えられないな。もちろんいい意味で。

悠「わかりました、そういうことなら一肌脱ぎましょう」

平良「おお、やってくれるか!」

悠「長谷河のダンナニ頼まれたんじゃ断れませんよ」

それに、長谷河さんの意外な一面も見られたしね。

平良「その旦那というのは……」

悠「それじゃ、行ってきますんでちょっと待っててください」

平良「……パラダイスパフェ」

悠「あー?パラサイトイブ?」

平良「パラダイスパフェだ!今週から始まった期間限定物らしい」

そういった流行情報も火盗に集まるのかと、一瞬聞いてみようかと思ってやめた。
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