ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

……そして文と別れた後に迎えたおれの朝は、騒がしく始まった。

吉音「待って待って待って!その話しって、ホントにホント!?」

悠「あ、朝からそんなに騒ぐなって……ほら、近所迷惑だし……」

信乃「迷惑を受けたのはこちらです……だぜ!」

平和「まさか、我らの入浴を覗き見ている輩がいるとは思わなかったでござる。いや、不覚不覚」

信乃「こそこそ盗み見るなど、性根の腐ったヤツに違いありませ……ないに決まってる!」

店を開けた直後、例の三人がこぞって店にやってきた。すわ露見したかと一瞬ひやっとしたが、甘いモノで気分を変えるのが目的だったらしく、胸をなで下ろした。しかしそんな安堵も、ほどなくしてあっけなく霧散する。

悠「……」

信乃「犯人を見つけたら、ただではすませ……せん!」

平和「あまり事を荒立てるのは好まぬが……」

悠「そ、そうだよな、あんまり大事にするのもちょっと」

平和「まあ、ちょいとキツイお仕置きくらいで済ませて、あとは番所に任せるくらいにしておくべきでござる」

悠「…………そ、そう……だよな」

信乃「甘い!甘過ぎます!!」

吉音「うん!卑劣な輩には、正義の鉄槌を下すべき!!」

平和「お上に任せるのも正義かと思うのでござるが……」

信乃「杓子定規のお上になぞ、任せておけませ……おけぬ!!今度あのような狼藉に及ぶ様でしたら、この私が直々に斬り捨ててやり……やるぜ!」

吉音「その時は、あたしも駆けつけて、一太刀食らわせてやるからね!」

信乃「よろしく頼みま……頼むぜ!」

是非頼まれないでいただきたい。我が身のために。

つばめ「えっ、頼んでいいの?じゃあわたくし、みたらし団子ぉ~」

悠「ありがとう、つばめ……詳しく言えないけど、今お前の存在がすごく助かる!これはおれのおごりだ、食え!」

つばめ「全然よく分からないけど、わ~い!」

昨晩の覗き事件を訥々と語る平和に、天誅下すと息巻く信乃、それに同意して加熱してく吉音。気分を変えるはずの来店は、逆に昨晩の話題に火がついてしまい、どんどんと深みにはまっていく。針のムシロ同然なおれには、つばめの呑気さが今は一服の清涼剤だ……うぅ……。

吉音「ほら悠、もっとちゃんと話しを聞くの!そして一緒に見廻り行くよ~!」

悠「そ、そうだな、いつか行こう……」

信乃「破廉恥な輩は撲滅すべき……だな!」

悠「お……おう、そうだな……あ、あはは……」

どうかこの、引きつり笑いの意味に気づきませんように。そんなことをひたすらに祈りながら、昨晩以上に長い長い朝を、おれは過ごす羽目になるのだった……。

寅「なに妙な面してる」

悠「どぅわ?!と、と、とらとらとらー」

寅「喧嘩売ってんのかコラ。あ゛?おい。」

悠「何この子、顔合わせてたったの一秒で胸ぐら掴まれた」

寅「お前は人をイラつかせる天才だからな!!」

悠「わかったから落ち着け怖いよ」

寅「ふんっ、さっさと茶と団子持ってこい」

悠「普通に注文しろよな……」

寅「っで、なんの集まりだ?」

吉音「それがねー、姫様ちゃん達がお風呂覗かれたんだよー」

寅「へー、お前が犯人か?」

悠「ぶぁっ?!」

危うく持っていた団子と茶をぶちまけそうになった。

寅「なにふざけてる」

悠「お前こそなにふざけたこといってんだ!!」

寅「あんな貧相なガキどもの裸を見たいやつ何ぞ相当の好きもので変わりモノだけだろ」

悠「ああ、おれはそれに該当するってかゴラァ!!」

信乃「こっちにも失礼で……だぜ!」

寅「あ゛?」

平和「あわわっ!天国、怖そうな人だよぉ……」

つばめ「お団子おかわり~」

吉音「あっ、悠!私も私も~」

悠「はああぁ……。」

色々と今日は行き心地しない日を過ごしそうだ……。
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