ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー廃寺ー
悠「……やっぱり、あのやり方はかなり無茶だったって」
文「しかし、他にどうしろというんですか。女性の軟肌を観察する方法なんて……」
往水とのやりとりをのりきったおれたちは、更に場所を変えることにした。小鳥遊堂に戻ってもよかったが、気分的に出来るだけ人気のある場所から遠ざかりたかった。そういう訳で、文が根城にしている寺まで引き上げてきて、今夜の反省会が始まり。……そして、愚痴のこぼし合いへと発展していた。
悠「だからといって、犯罪スレスレ……というか、むしろぎりぎりアウトだろあれは」
文「わ、私だって、好きで覗いていたわけじゃありません……そんな趣味もありませんし……もっとも小鳥遊さんには、そういう趣味があるのかもしれませんけど」
悠「あるわきゃないだろ、そんな趣味!」
文「小鳥遊さんのことをほとんど知らないので、あるかどうか否定できなかったので、断言を避けたまでですよ」
悠「きっぱり断言しいくれていいから」
文「もっとも、袖の下の渡し方はなかなか堂に入ってましたけど。……悪徳商人の可能性はありそうですね。」
悠「文の覗き魔!デバガメ!」
文「小鳥遊さんの腹黒店主!前髪お化け!」
悠「…………ぷっ」
文「…………ふふ」
一瞬の間をおいて、おれ達はどちらともなく笑いだしていた。本当に今日は一日が長くて、そして夜はてんやわんやだった。しかも目的は失敗で、逃げ出して、誤魔化して。そしてやっとひと息つけた今、笑いがこみあげないわけがない。
悠「っか、まさかこんなことになるなんてな」
文「うっかり犯罪者になるところでしたね」
悠「ひやひやもんだったな。もうこんな危ない橋はこりごりだ。」
文「そこについては、私も同感です。アザを調べるのは諦めます。もしくは……小鳥遊さんに口説いていただいて、調べてもらいますね」
悠「口説くって、それもそうとう無茶だと思うぞ?」
文「でも合法的に、アザを確かめられます」
悠「合法的に婚姻まで持ち込まれそうだけどな」
文「でも、外れだったら離婚してくださいね。次の人を確かめてもらわないといけませんので」
悠「じゃあおれは、一万七千回結婚するのか?」
文「安心してください。一回は当たりなので、一万六千九百九十九回で済みますよ?」
悠「わーいうれしいなぁ」
文「あはは……っ」
悠「ひゃひゃひゃ」
そうしてひとしきり笑いあった後、文がぼそりと呟いた。
文「……この島に来て、初めて笑ったかもしれません」
悠「ずっとお兄さんのことが心配だったんだろ?無理もないって」
文「恥ずかしいですよね。自分で探してしまうくらい、兄に執着してるなんて。しかも、島に忍び込んでまで」
悠「心配してとうぜんだろ、強大なんだから」
文「おまけに、唯一の肉親ですからね。余計に、拘ってしまうんだと思います」
悠「ご両親……亡くなってるのか?」
文「ええ、もうかなり早くに。それからはずっと孤児院暮らしで、二人で力を合わせて乗り切りました」
文の意外な過去が、月明かりの下にこぼれおちていく。
悠「……」
文「その生活も、兄がこちらに進学するまでの間でしたけどね」
悠「孤児院から大江戸学園に入るのがどれほど大変なことか想像もつかないけど、かなり優秀だったんだろうな」
文「はい、自慢の兄でした。学者肌の努力家で、没頭すると寝食も忘れて打ちこみます」
喋りながら、すっと一枚の写真を差し出した。利発そうな青年が、ぶっきらぼうに笑っている。
悠「……」
文「五十嵐光臣といいます。妹想いの人で、どれだけ忙しくても私のことだけはずっと気にかけてくださいました。入試直前なのに私が風邪をひいたときは、一晩つきっきりで看病してくれましたし、それに入学してからも、ずっと手紙を送ってもらっていました。もっとも、研究のことばっかりでしたけどね。専門用語とかならべられても、何の事だかさっぱりなのに。そんな、困ったこともあるんです」
困ったことといいながら、声音も表情も、ちっとも困ってる様子はない。手紙をもらうことがどれだけ嬉しかったのか、それだけでもう充分伝わってくる。きっといいお兄さんで……いい妹だったんだろうなぁ。
悠「光臣か……どっかの光臣とはダンチだな」
悠「……やっぱり、あのやり方はかなり無茶だったって」
文「しかし、他にどうしろというんですか。女性の軟肌を観察する方法なんて……」
往水とのやりとりをのりきったおれたちは、更に場所を変えることにした。小鳥遊堂に戻ってもよかったが、気分的に出来るだけ人気のある場所から遠ざかりたかった。そういう訳で、文が根城にしている寺まで引き上げてきて、今夜の反省会が始まり。……そして、愚痴のこぼし合いへと発展していた。
悠「だからといって、犯罪スレスレ……というか、むしろぎりぎりアウトだろあれは」
文「わ、私だって、好きで覗いていたわけじゃありません……そんな趣味もありませんし……もっとも小鳥遊さんには、そういう趣味があるのかもしれませんけど」
悠「あるわきゃないだろ、そんな趣味!」
文「小鳥遊さんのことをほとんど知らないので、あるかどうか否定できなかったので、断言を避けたまでですよ」
悠「きっぱり断言しいくれていいから」
文「もっとも、袖の下の渡し方はなかなか堂に入ってましたけど。……悪徳商人の可能性はありそうですね。」
悠「文の覗き魔!デバガメ!」
文「小鳥遊さんの腹黒店主!前髪お化け!」
悠「…………ぷっ」
文「…………ふふ」
一瞬の間をおいて、おれ達はどちらともなく笑いだしていた。本当に今日は一日が長くて、そして夜はてんやわんやだった。しかも目的は失敗で、逃げ出して、誤魔化して。そしてやっとひと息つけた今、笑いがこみあげないわけがない。
悠「っか、まさかこんなことになるなんてな」
文「うっかり犯罪者になるところでしたね」
悠「ひやひやもんだったな。もうこんな危ない橋はこりごりだ。」
文「そこについては、私も同感です。アザを調べるのは諦めます。もしくは……小鳥遊さんに口説いていただいて、調べてもらいますね」
悠「口説くって、それもそうとう無茶だと思うぞ?」
文「でも合法的に、アザを確かめられます」
悠「合法的に婚姻まで持ち込まれそうだけどな」
文「でも、外れだったら離婚してくださいね。次の人を確かめてもらわないといけませんので」
悠「じゃあおれは、一万七千回結婚するのか?」
文「安心してください。一回は当たりなので、一万六千九百九十九回で済みますよ?」
悠「わーいうれしいなぁ」
文「あはは……っ」
悠「ひゃひゃひゃ」
そうしてひとしきり笑いあった後、文がぼそりと呟いた。
文「……この島に来て、初めて笑ったかもしれません」
悠「ずっとお兄さんのことが心配だったんだろ?無理もないって」
文「恥ずかしいですよね。自分で探してしまうくらい、兄に執着してるなんて。しかも、島に忍び込んでまで」
悠「心配してとうぜんだろ、強大なんだから」
文「おまけに、唯一の肉親ですからね。余計に、拘ってしまうんだと思います」
悠「ご両親……亡くなってるのか?」
文「ええ、もうかなり早くに。それからはずっと孤児院暮らしで、二人で力を合わせて乗り切りました」
文の意外な過去が、月明かりの下にこぼれおちていく。
悠「……」
文「その生活も、兄がこちらに進学するまでの間でしたけどね」
悠「孤児院から大江戸学園に入るのがどれほど大変なことか想像もつかないけど、かなり優秀だったんだろうな」
文「はい、自慢の兄でした。学者肌の努力家で、没頭すると寝食も忘れて打ちこみます」
喋りながら、すっと一枚の写真を差し出した。利発そうな青年が、ぶっきらぼうに笑っている。
悠「……」
文「五十嵐光臣といいます。妹想いの人で、どれだけ忙しくても私のことだけはずっと気にかけてくださいました。入試直前なのに私が風邪をひいたときは、一晩つきっきりで看病してくれましたし、それに入学してからも、ずっと手紙を送ってもらっていました。もっとも、研究のことばっかりでしたけどね。専門用語とかならべられても、何の事だかさっぱりなのに。そんな、困ったこともあるんです」
困ったことといいながら、声音も表情も、ちっとも困ってる様子はない。手紙をもらうことがどれだけ嬉しかったのか、それだけでもう充分伝わってくる。きっといいお兄さんで……いい妹だったんだろうなぁ。
悠「光臣か……どっかの光臣とはダンチだな」