ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー路地ー
悠「……はぁ……はぁ、はぁ……と、とりあえず、ここまでくればひと安心、か……?」
文「だ、誰も、追って来てないと……と、思います……」
走ること以外に余力がなく、追っ手がいたのか、振り切れたのか、まるで見当がつかない。でも、文が大丈夫といってるんだから、きっと問題ないんだろう……。
往水「おや、小鳥遊さん。月の綺麗な晩ですねぇ」
悠「なっ!?」
思わず臓腑が震えあがった。確かに後ろには誰も居なかったが、目のまえに突然中村が現れた。
往水「おや?そちらのお連れさん、新さんかと思いきや別の方でしたか。どのような御関係で?」
悠「……いや、関係なんてそんな大したもんじゃなくて、店に来てくれるお客さんだよ」
往水「ほほう、お客様でしたか。ただのお客さんと……こんな時間にご一緒しているとは、これまた珍しい」
口調こそとぼけていたが、なんだか真綿で首を絞められてるようで息苦しい。どうも忘れがちになってしまうけど、さすが同心というところか。
悠「ちょっと夜食を買いに出かけたら、たまたま出くわして少し話しこんでたんだよ。お店の感想とかをね」
往水「そうでしたか。いやいや、疑問があるとつい気になってしまって、職業病ですかねぇ。あははは。いえね、あちらからなにやら騒がしい物音が聞こえてきたもので何事だろうと向かっていたところだったんですよー。小鳥遊さん達が何か知っていればなと思いましてね」
にこやかな笑みを浮かべているが、瞳の奥は笑っていなかった。かといってこちらも、事情を素直に話せるわけがない。
悠「ああ、ほら向こうに銭湯があるだろう。その脇を通りながらこっちに歩いてたんだけど、大分通り過ぎかけた時に、急に騒がしくなったんだ」
往水「銭湯が騒がしく……ふむ、覗きでも出ましたか?」
文「…………!」
悠「ああ、出たよ。大きくて黒い……カラスがな。どうやら銭湯に飛び込んだようで、鳴き声がやけに騒々しかったな。入ってたお客さんもさぞ驚いてたことだろうな」
往水「カラスがお風呂場に、ですか。そりゃまた、騒がしかったでしょうねぇ」
口で言うほど同意はしていないのは、声音で伝わってきた。
ジロウ『ガァァァァァ!ガァアァァァァァッ!!』
悠「おっと、こっちまで逃げてきたみたいだな、アイツ」
ジロウのナイスアシストに、心の中で大絶賛祭り開催中。
往水「そうでしたか、どおりで賑やかだと思いました」
耳を澄ませば、風に乗って微かに騒々しさが伝わってくる。平和辺りが遅まきながら息まいてるんだろうか。
悠「……」
往水「ところで、そちらのお嬢さんは何かご存じ…」
文「………わ、私は…………」
悠「それにしても、こんな時間まで見周りとは大変だな。頭が下がる思いだ」
往水「いえいえ、皆さまの平和を守るためでしたら、この身のひとつやふたつ、惜しくはありませんよ」
お互いそらぞらしいことをいってることは自覚しつつ、けれどツッコむことはしない。
悠「たまには少し骨でも休めるといい。いつもご苦労さん」
懐に一度収めた手を、そっと往水のそれへと運ぶ。
往水「……とんでもない、同心として当然のことですよ」
往水に握らせたモノは当然、言うまでもない。それは彼女も承知している。
文「……」
往水「では、アタシは見周りを続けますので、これで」
そんなことをいいながら、彼女は踵を返し、歩いて来た道を戻っていった。
悠「…………」
文「…………」
悠「……もう行った、かな?」
文「……みたい……ですね」
悠「はあぁぁぁ……驚いた」
文「まさか、同心の方と出くわすとは……」
緊張が一気にほぐれ、おれ達は凝り固まった息を深く深く吐き出した。
悠「とりあえず、その……」
文「お疲れ様ですね……」
悠「……はぁ……はぁ、はぁ……と、とりあえず、ここまでくればひと安心、か……?」
文「だ、誰も、追って来てないと……と、思います……」
走ること以外に余力がなく、追っ手がいたのか、振り切れたのか、まるで見当がつかない。でも、文が大丈夫といってるんだから、きっと問題ないんだろう……。
往水「おや、小鳥遊さん。月の綺麗な晩ですねぇ」
悠「なっ!?」
思わず臓腑が震えあがった。確かに後ろには誰も居なかったが、目のまえに突然中村が現れた。
往水「おや?そちらのお連れさん、新さんかと思いきや別の方でしたか。どのような御関係で?」
悠「……いや、関係なんてそんな大したもんじゃなくて、店に来てくれるお客さんだよ」
往水「ほほう、お客様でしたか。ただのお客さんと……こんな時間にご一緒しているとは、これまた珍しい」
口調こそとぼけていたが、なんだか真綿で首を絞められてるようで息苦しい。どうも忘れがちになってしまうけど、さすが同心というところか。
悠「ちょっと夜食を買いに出かけたら、たまたま出くわして少し話しこんでたんだよ。お店の感想とかをね」
往水「そうでしたか。いやいや、疑問があるとつい気になってしまって、職業病ですかねぇ。あははは。いえね、あちらからなにやら騒がしい物音が聞こえてきたもので何事だろうと向かっていたところだったんですよー。小鳥遊さん達が何か知っていればなと思いましてね」
にこやかな笑みを浮かべているが、瞳の奥は笑っていなかった。かといってこちらも、事情を素直に話せるわけがない。
悠「ああ、ほら向こうに銭湯があるだろう。その脇を通りながらこっちに歩いてたんだけど、大分通り過ぎかけた時に、急に騒がしくなったんだ」
往水「銭湯が騒がしく……ふむ、覗きでも出ましたか?」
文「…………!」
悠「ああ、出たよ。大きくて黒い……カラスがな。どうやら銭湯に飛び込んだようで、鳴き声がやけに騒々しかったな。入ってたお客さんもさぞ驚いてたことだろうな」
往水「カラスがお風呂場に、ですか。そりゃまた、騒がしかったでしょうねぇ」
口で言うほど同意はしていないのは、声音で伝わってきた。
ジロウ『ガァァァァァ!ガァアァァァァァッ!!』
悠「おっと、こっちまで逃げてきたみたいだな、アイツ」
ジロウのナイスアシストに、心の中で大絶賛祭り開催中。
往水「そうでしたか、どおりで賑やかだと思いました」
耳を澄ませば、風に乗って微かに騒々しさが伝わってくる。平和辺りが遅まきながら息まいてるんだろうか。
悠「……」
往水「ところで、そちらのお嬢さんは何かご存じ…」
文「………わ、私は…………」
悠「それにしても、こんな時間まで見周りとは大変だな。頭が下がる思いだ」
往水「いえいえ、皆さまの平和を守るためでしたら、この身のひとつやふたつ、惜しくはありませんよ」
お互いそらぞらしいことをいってることは自覚しつつ、けれどツッコむことはしない。
悠「たまには少し骨でも休めるといい。いつもご苦労さん」
懐に一度収めた手を、そっと往水のそれへと運ぶ。
往水「……とんでもない、同心として当然のことですよ」
往水に握らせたモノは当然、言うまでもない。それは彼女も承知している。
文「……」
往水「では、アタシは見周りを続けますので、これで」
そんなことをいいながら、彼女は踵を返し、歩いて来た道を戻っていった。
悠「…………」
文「…………」
悠「……もう行った、かな?」
文「……みたい……ですね」
悠「はあぁぁぁ……驚いた」
文「まさか、同心の方と出くわすとは……」
緊張が一気にほぐれ、おれ達は凝り固まった息を深く深く吐き出した。
悠「とりあえず、その……」
文「お疲れ様ですね……」