ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ーとある廃寺ー

悠「まあ……おれの話しはいいとして……で、手掛かりがあるんだっけ?」

文「先ほどお話しした協力してくれる方から、いくつか情報をいただいております」

悠「じゃあ今までも、それをもとにして……って、アレ?なのに、接触してるのって女子生徒ばかりじゃ……」

おれが知る限り、文はこれまで女子生徒ばかり狙っていた。吉音が文を連れてきたときも、最初吉音は彼女に襲われかけたのがきっかけだ。

文「それが、戴いた情報の手掛かりなんです。兄の行方不明には、どうやら事件性があるらしくて……しかもある女性がその事件に関与しているそうなのです。兄を連れ去った張本人か、もしくまその部下かと思われます。」

悠「ほむわむ……もとい、ふむふむ、ちなみにその女性の特徴って?」

文「胸の大きな女性、です」

悠「あー?」

文「簡単に言うなら、明らかに不必要と思われるほどに膨張した乳の持ち主です」

むしろ余計に長くなってるぞ、その説明。いや、疑問だったのはそこでは無くて……。

悠「ソレは、手掛かりというには、あまりに大雑把なような……」

文「十万のうち女性が五万として、仮に胸のサイズを三段階に分けたとすれば、既に一万七千人ほどに絞れます」

悠「そういう考え方もある……のか?乳だけに絞るって……じゃなくて、でもそこから絞り込むのも、なかなか難しいと思うが」

文「絞れればそれでいいし、絞れなくてもそれでよしです」

悠「絞れなくてもいいのか?」

文「一万七千回、追いつめて問い詰めればいいだけですから」

悠「わー……ワイルド」

その、手段を選ばぬ剛胆さと呼ぶべきか、逞しい強靭さと称すべきか、判断に悩む。

いや……ただの、一途なのかもしれない。妹が持つ、兄への、当たり前の、けなげで、懸命な、まっすぐすぎるほどの、兄弟愛。

文「もちろん、絞れることには越したことありませんし、情報はもうひとつあります。極めて腕が立つ、とのことです」

悠「じゃあその女性が、直接お兄さんを攫った可能性が高いんだな。」

文「はい、そう聞いています。兄は研究者なのですが、武術も疎かにはしませんでした。そこらの女性に負けるような事はありません」

悠「なるほじ、腕に覚えがある、巨乳の女性ね……」

思い返してみれば、文が襲った女子生徒は皆その条件が当てはまるな。

文「胸の大きな人が、私の敵です」

悠「……文がそんなふうに言うと、別の意味に取られそうだけどな」

文「どういう意味ですか?」

どういう意味、って……。

悠「文はほら、謙虚で控えめだからさ。具体的に言えば……Bくらい」

文「……どうやら私の敵は、一万七千とひとりのようですね……」

悠「待て待て、刀を握り締めるな。何する気だ」

文「……追い詰めます」

悠「ぴぃぃ!」

文「……そして問い詰めます」

悠「と、問い詰められてもこれだけは譲らんぞ!!」

文「なんですか、その意地は……」

悠「だって、どうみても良くてBだし」

文「……」

悠「なんていうかその、本当にすみません。抜かないでください。刃先が当たってますから」

文「……話を続けます」

悠「どうぞどうぞ」

文「そしてこれはジロウから聞いた情報なんですが、兄を襲った女性は獣の姿をした剣魂を操っていたそうです。ひどく強く、猛々しく、禍々しかったとか」

悠「どうしてジロウが、そんなことを?」

文「ジロウは兄がつくった剣魂なんです。元々兄は、そちら方面の技術者でして、兄の遺留品の中にこの刀があって、その中にジロウがいました」

悠「じゃあ、ジロウは現場に居合わせたってことか」

文「残念ながらジロウは、その剣魂しか見ていないんですけどね。でも、重要な情報の一つです」

それで、吉音が目的の女性じゃないと分かったわけか。確かにマゴベエは、禍々しいには程遠い。口喧しいならぴったりだけどな。

悠「ふむ……」

文「しかし、そんな物騒な剣魂をいつも出してはいないでしょうから、基本は大きな胸と、腕の立つの二点ですね。」

悠「ほむほむ、人探しの事情とその手掛かりはわかった。んで、具体的におれはなにをしたらいいんだ?」

文「そ……それは、ですね……」

あれほど素直に話してきた文が珍しくあからさまな躊躇を見せた。

悠「どうした?説明しにくい複雑な話しとかか?」

文「い、いえ、そういう理由ではないんですが……少しお耳を貸してもらえますか?」

悠「後で返してくれよ」

文「……その減らず口と交換なら考えます。」

おれの軽口にも文らしい実直な反応を示しつつ、そちらへ傾けた耳に小さな声が飛び込んできた。

悠「……」

文「………………」

悠「ふむ……ほむ……うん……ん……ん?へっ?えぇぇぇ!?うわぁ……っか、……えー……ソレって本気か?マジで冗談抜きか?」

文「……冗談であればよかったのかもしれませんが」

悠「あ……まぁそうだよな。そっか、それで協力をか……」

文「力を貸して……いただけますか?」

悠「そりゃ、約束はしたから……したけど……したんだよなぁ……」

文「すみませんが、よろしくお願いします……ね」

悠「……わかったよ。やってやろう」
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