ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー大江戸学園:日本橋ー

悠「えーと、これは?」

文「この前、団子をごちそうになったお礼です。受け取ってください。」

悠「あー……そういうわけか……っか、あれは助けてもらったお礼だから、これじゃお礼のお礼だ。気持ちは嬉しいけど、気にしなくていいんだからな」

文「……いえ、団子の件はこれで相殺しておきましょう」

押し付ける勢いで、菓子折りの箱をおれに突き付けてくる。っか、地味に鳩尾に当たってて、痛い。

悠「わーった、わーった。受け取る、受け取るから……文のためにもおれのためにも」

文「そうしていただけると、たすかります」

悠「にしても、店の方に顔を出してくれればいいのに。茶のひとつくらいは出すぞ」

文「…………」

悠「あー?どうかしたか?」

文「いえ、その……」

悠「何か言いにくいことでもあるのか?遠慮とかしなくていいんだぞ。話しくらいは聞いてやるし、出来ることはやるし、出来ないことはしないからな」

文「なんだか、いっそ清々しいですね」

馬鹿馬鹿しいことをいって空気を和ませる目的は、それなりに叶ったようだ。文がやれやれと苦笑いし、少しだけ雰囲気が落ち付いた気がする。

悠「ふふっ」

文「……念のためにいっておきますが、褒めてませんよ?」

……おれの評価も、落ちた気がしないでもない。

悠「……」

文「でも、そのご好意はありがたく受け取ります。とはいえ、ここでは話しこむにも向いてませんね。少し、場所を変えましょうか」





ーとある廃寺ー

悠「手を貸してほしい、だって?」

文「はい。もしよろしければ、ですが」

人気のないところがいいというので、行き先は文に任せ、結果的にここで落ち着いた。どうやらここが、以前聞いたことがある、文のねぐららしい。寺で寝泊まりしてることといい、今回のことといい、ちょっと事情がありそうな子だな……。

悠「……」

文「お願いできますか?」

悠「あー……いいよ」

文「……あの、私が言うことでもありませんけど、もう少し考えてから答えたほうが良くありませんか?貴方を騙そうとしていたり、罠にかけてやろうとしているのかもしれないんですよ?」

悠「文は、おれを騙そうとしたり、罠にかけるつもりなのか?」

文「いいえ、それはありません」

悠「だろ?そう思った。だから、「いいよ」で無問題だ」

文「……おかしな人ですね」

悠「よくいわれる。っか、だから、おれをえらんだ――んじゃないのか?」

文「そうですね……お人よしそうだというのは、見ただけで分かりました」

悠「ほほう、おれの本質を見抜くとはなかなか……しかーし、実はおれの方が腹黒で、文を騙そうとしてるのかもしれないかもな?」

冗談めかしてそういったおれの言葉に

文「……いいんですよ、それでも、貴方になら騙されてもいいと思えたので、お願いしているのです」

返ってきたのは、とても真摯でまっすぐなものだった。

悠「えっ……あー、いや、まさかそんな風にいわれるなんて思わなかったな……いひひひっ……」

文「貴方だったら、騙されても仕返しが簡単そうなので」

悠「ですよねーっ!!」

言ってみれば、まだ名前を知り合ったくらいの関係なんだから、すごい信頼とかあるわけないな。あん、ちょっと言葉に過剰反応してしまっただけで、なにも悪くない。文だって悪くないし、おれだって悪くない……と思いたい。
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