ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「うーん……」

それに気付いたのは、ちょうど店を開く準備を終えた時だった。なにやら、ねずみやの様子がおかしい。表に客が集まりつつあるのに、店が開いてないのだ。由真はおれと同じくらいに帰って来たはずだし、いつもならもう閉店している時間なのに……。なにかあったのか?心配だし、ちょっと様子を見に行ってみるか。というわけで、店の前に居る客たちには気づかれぬよう、ねずみやの勝手口へと回る。そして戸を叩いて声をかけようとした時だった。

由真「心配いらないってば」

結花「でも、やっぱりふたりだけじゃ……」

中から聞こえてきた会話に首をかしげる。やっぱりなにかあったみたいだな。

悠「ええと……ちょっといいかい?」

唯「八雲さん?」

おれだちすぐに気づいたらしく、唯ちゃんが勝手口の戸を開けて招き入れてくれた。

由真「なにしに来たのよ?」

悠「まあ、その……店が開いてないみたいだから、なにかあったのかと思ってさ」

由真「アンタには関係ないでしょ」

結花「由真。そんないい方しないの」

由真「だって……」

由真がふくれて背を向ける。その様子に小さく嘆息してから、結花さんが微苦笑を浮かべた顔をおれの方に向けた。

結花「ごめんなさいね、心配かけちゃって」

悠「いえ、気にしないでください。それより、なにかあったんですか?」

結花「ううん。別になにも……」

唯「いいじゃん。せっかくだし悠さんにも聞いてもらおうよ」

由真「唯」

唯「おっと」

咎めるような由真の声を聞き、唯ちゃんが慌てておれの背中まで逃げてくる。

悠「っで、どしたんだ?」

唯「あのね、今日、結花姉がちょっと熱っぽいんだって、だからお店は休みにしようかって話してたんだけど、由真姉がやるっていいだして……」

由真「だって今日の分のケーキはもう作ってあるんでしょ?なら、お店開かないなんてもったいないじゃない。まあ料理は無理だけど……ケーキがあるなら、何とかなるわよ」

結花「でも、やっぱりふたりだけじゃ手が足りないと思うし」

由真「心配いらないってば。少しは私と唯を信用してよ」

唯「って具合なの」

なるほど、由真と唯ちゃんの二人だけでは、人手が足りないと心配する結花さんの気持ちはわかる。

だが、出すものがあるのに休みにするのは勿体ないという由真の気持ちもわからなくはない。とはいえ、まず気にするべきことは……。

悠「結花さん。熱っぽいって、身体は大丈夫なんですか?」

結花「正直言うと、ちょっと辛いかしら。朝はそんなことなかったんだけど、昼くらいからだんだんとね」

結花さんはいつも通りの優しい笑みを浮かべているが、確かにその顔は熱っぽく赤らんでいる。

悠「ちょっと失礼」

結花「あ……」

結花さんのおでこに手を当ててみた。そして、次に首の裏に手を回す。

悠「だいぶ熱いな。薬を飲んで休んでた方がいいんじゃないですか?」

結花「ぁ……うん。でも、どうしてもお店を開くっていうなら、私も何か手伝わないと……」

由真「だから私たちだけで大丈夫だってば」

結花「そうは言うけど……」

悠「あー……あのさ、もしよかったら、おれが手伝おうか?」

結花・由真「「え?」」

唯「手伝ってくれるっ、ホントに?」

悠「ああ。隣同士のよしみだし、どうせうちの店は今日も暇だろうから」

結花「そんな。悪いわよ」

悠「いや、でも、それなら結花さんは休めるし、お店もひらけるじゃないですか。由真もそれでいいだろ。」

由真「…………っていうかアンタ、料理とか出来るわけ?」

悠「んー……出来ないわけじゃが結花さんの味とは絶対に違ってくるから出すのはおれが作って出すのはやめといた方が良い」

由真「胸張って言うな!」

悠「なんだよ。お前に至っては作れない癖に」

由真「うっさいわね!」

唯「はいはい。由真姉はちょっと黙ってて」
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