ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
想「ああ……なるほど」
大体の事情を察したのか、テーブルに置かれた書道道具を見て、逢岡さんが苦笑いする。
悠「はぁ……」
想「小鳥遊君。書きものでしたら、よろしければ私が引き受けましょうか?」
悠「えっ?いや、でも……」
にこやかに申し出てくれる逢岡さんだったが、さすがにこんな雑務をお願いするのは恐縮してしまう。
想「自分の字に自信があるわけではないですが、少なくとも読める字は書けると思いますよ?」
悠「……すみません。それじゃ、お願いします」
想「はい。まかされました」
冗談まじりの笑顔に背中を押され、思い切ってお願いすることにした。こういう自然な気遣いをしてくれるからこそ、この人は多くの一般生徒からも慕われているんだろうな。
悠「とりあえず、このメニューからお願いします」
想「はい。えーと、栗……む、し……羊……羹……っと、ふふっ、何だか甘いものが食べたくなってきますね」
優雅な仕草で書をしたためた逢岡さんは、楽しげに唇を綻ばせる。しっかりとした止め跳ねに、力強くも流麗な書体。想像を遥かに超える美しい筆文字に、思わずほう……と溜息が出てしまう。
悠「いや、凄い。本当に達筆ですね、逢岡さん」
吉音「そうそう!だから、あたしが代筆を頼んでもすぐに想ちゃんが書いたってばれちゃうんだよねぇ。それぐらい字が上手いって、学園でも有名なんだよ」
むしろ、お前の代筆が務まるヤツがいるのかと逆に聞きたい。アレは他人が真似できるレベルを超えているだろ?
想「ほんの手慰みですよ。昔、祖母に習って少々嗜んでいた程度ですから」
悠「いや、おれも多少は書道をかじってましたけど、ここまで上手には書けないですよ」
想「あら、小鳥遊君も書道をやってらしたんですか?」
悠「ええ……親父の教育上ちょっと、色んなことやらされまして、嫌な意味で厳しかったので」
想「書は人となりともいうように、字にはその人の人となりが現れますからね。筆の運び方ひとつとっても、その人の性格が滲み出てくるものです。ですから、小鳥遊君のお父様も、教育の一環としてあえて厳しく接したのでしょう」
悠「……いーや、どうっすかね。ウチの家庭派特殊ですから特に爺を筆頭に野郎側は」
吉音「へぇ~っ、字を見ただけで性格が分かっちゃうんだ?すごいね~」
悠「そう考えると、お前のは無茶苦茶だよな」
ぽろっと洩らしてしまったひと言に、吉音の頬がぷくっとふくらむ。
吉音「もぉっ、悠はすぐそう意地悪言う~っ!」
想「ふふ……徳田さんの字からは、天真爛漫てでのびのびとした感じがよく伝わってきます」
吉音「さっすが想ちゃん!良く分かってる~♪」
相変わらず逢岡さんは吉音には甘い。
想「私にはない部分ですから。ちょっぴり羨ましいですね」
悠「コイツは自由すぎますけどね」
くすっと微笑んだ逢岡さんは、筆に墨を含ませ次の札に向き合った。
想「抹……茶……フ、ロー……ト。うん。ふふっ、抹茶フロート、美味しいですよね。」
リラックスした表情でさらさらと流れるように筆を運び、その出来栄えに満足したように頷く逢岡さん。堂々とした筆跡には、逢岡さんらしいおおらかさが溢れている。
まさに「書は人なり」だな。
先ほどの逢岡さんの言葉を思い出し、心から納得してしまったおれだった。
悠「お疲れ様でした。おかげで助かりましたよ」
想「いえいえ。こんなことで良かったら、いつでもいってください」
吉音「ねぇねぇ悠、あたしのはー?」
せめてものお礼にと、逢岡さんにお茶とお菓子を出すと、物欲しそうな目をした吉音がすり寄って来た。
悠「あー?お前が書いたのは使いものにならないだろ。」
吉音「えぇーっ!?ひどーいっ!」
想「徳田さん、良かったら半分いかがですか?」
不満の声をあげる吉音に、逢岡さんがさらに置かれた饅頭をふたつに割り、その片方を差し出す。
吉音「ほんとっ!?想ちゃん優しい~っ♪……それに比べて、悠はケチだよね~」
悠「……お前の分も用意してやるよ。働いてくれた逢岡さんのお礼を野良イヌに食われるわけにはいかないしな」
吉音「いぇ~い!やったぁ♪」
悠「嫌味も通じねぇ?!!」
想「ふふっ。良かったですね、徳田さん」
やっぱり逢岡さんって吉音に対してアマアマだよなぁ。改めてそんなことを思い出しながら、おれは厨房に向かうのだった。
想「ああ……なるほど」
大体の事情を察したのか、テーブルに置かれた書道道具を見て、逢岡さんが苦笑いする。
悠「はぁ……」
想「小鳥遊君。書きものでしたら、よろしければ私が引き受けましょうか?」
悠「えっ?いや、でも……」
にこやかに申し出てくれる逢岡さんだったが、さすがにこんな雑務をお願いするのは恐縮してしまう。
想「自分の字に自信があるわけではないですが、少なくとも読める字は書けると思いますよ?」
悠「……すみません。それじゃ、お願いします」
想「はい。まかされました」
冗談まじりの笑顔に背中を押され、思い切ってお願いすることにした。こういう自然な気遣いをしてくれるからこそ、この人は多くの一般生徒からも慕われているんだろうな。
悠「とりあえず、このメニューからお願いします」
想「はい。えーと、栗……む、し……羊……羹……っと、ふふっ、何だか甘いものが食べたくなってきますね」
優雅な仕草で書をしたためた逢岡さんは、楽しげに唇を綻ばせる。しっかりとした止め跳ねに、力強くも流麗な書体。想像を遥かに超える美しい筆文字に、思わずほう……と溜息が出てしまう。
悠「いや、凄い。本当に達筆ですね、逢岡さん」
吉音「そうそう!だから、あたしが代筆を頼んでもすぐに想ちゃんが書いたってばれちゃうんだよねぇ。それぐらい字が上手いって、学園でも有名なんだよ」
むしろ、お前の代筆が務まるヤツがいるのかと逆に聞きたい。アレは他人が真似できるレベルを超えているだろ?
想「ほんの手慰みですよ。昔、祖母に習って少々嗜んでいた程度ですから」
悠「いや、おれも多少は書道をかじってましたけど、ここまで上手には書けないですよ」
想「あら、小鳥遊君も書道をやってらしたんですか?」
悠「ええ……親父の教育上ちょっと、色んなことやらされまして、嫌な意味で厳しかったので」
想「書は人となりともいうように、字にはその人の人となりが現れますからね。筆の運び方ひとつとっても、その人の性格が滲み出てくるものです。ですから、小鳥遊君のお父様も、教育の一環としてあえて厳しく接したのでしょう」
悠「……いーや、どうっすかね。ウチの家庭派特殊ですから特に爺を筆頭に野郎側は」
吉音「へぇ~っ、字を見ただけで性格が分かっちゃうんだ?すごいね~」
悠「そう考えると、お前のは無茶苦茶だよな」
ぽろっと洩らしてしまったひと言に、吉音の頬がぷくっとふくらむ。
吉音「もぉっ、悠はすぐそう意地悪言う~っ!」
想「ふふ……徳田さんの字からは、天真爛漫てでのびのびとした感じがよく伝わってきます」
吉音「さっすが想ちゃん!良く分かってる~♪」
相変わらず逢岡さんは吉音には甘い。
想「私にはない部分ですから。ちょっぴり羨ましいですね」
悠「コイツは自由すぎますけどね」
くすっと微笑んだ逢岡さんは、筆に墨を含ませ次の札に向き合った。
想「抹……茶……フ、ロー……ト。うん。ふふっ、抹茶フロート、美味しいですよね。」
リラックスした表情でさらさらと流れるように筆を運び、その出来栄えに満足したように頷く逢岡さん。堂々とした筆跡には、逢岡さんらしいおおらかさが溢れている。
まさに「書は人なり」だな。
先ほどの逢岡さんの言葉を思い出し、心から納得してしまったおれだった。
悠「お疲れ様でした。おかげで助かりましたよ」
想「いえいえ。こんなことで良かったら、いつでもいってください」
吉音「ねぇねぇ悠、あたしのはー?」
せめてものお礼にと、逢岡さんにお茶とお菓子を出すと、物欲しそうな目をした吉音がすり寄って来た。
悠「あー?お前が書いたのは使いものにならないだろ。」
吉音「えぇーっ!?ひどーいっ!」
想「徳田さん、良かったら半分いかがですか?」
不満の声をあげる吉音に、逢岡さんがさらに置かれた饅頭をふたつに割り、その片方を差し出す。
吉音「ほんとっ!?想ちゃん優しい~っ♪……それに比べて、悠はケチだよね~」
悠「……お前の分も用意してやるよ。働いてくれた逢岡さんのお礼を野良イヌに食われるわけにはいかないしな」
吉音「いぇ~い!やったぁ♪」
悠「嫌味も通じねぇ?!!」
想「ふふっ。良かったですね、徳田さん」
やっぱり逢岡さんって吉音に対してアマアマだよなぁ。改めてそんなことを思い出しながら、おれは厨房に向かうのだった。