ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー大江戸学園:教室ー

「ゆ~うさんっ♪」

帰り支度をしていると、いきなり誰かが背中に飛びついて来た。そのまま首に腕が絡みつき、重みで息が出来なくなる。

悠「うぉっ?!ちょっ……誰だ……」

「え~、わかんないの~?」

由真「唯、なにバカなことしてんのよ?」

唯「あ~、なんでバラしちゃうかな~」

不満げな声を漏らしつつ、唯ちゃんがおれの背中から離れた。

由真「なんの用?」

唯「別に由真姉に用があって来たわけじゃないよ。ねぇ悠さん、もしよかったら、帰りにちょっと寄り道してかない?」

悠「寄り道?」

唯「うんっ。大通りにおいしいクレープ屋さんができたって話し聞いたんだけど」

吉音「いくぅぅぅぅ~っ!」

悠「なっ!?……新?」

吉音「クレープあたしも食べたい~っ」

唯「あはっ♪じゃあ、新さんも一緒に行こっ?」

悠「ええと……」

どうやらおれの返事を待たずして、寄り道をすることが決まってしまったらしい。





唯「っで、なんで由真姉までついてきてるわけ?」

由真「うっさいなー」

悠「……」

おれや唯ちゃんとは微妙に距離を取って歩きつつ、由真が不機嫌そうに顔をしかめる。

由真「私だって前からあのお店には興味あったんだから、いつ行こうと勝手でしょ」

唯「も~、素直じゃないんだから由真姉は。一緒に行きたいならそういえばいいのに」

由真「別に一緒に行きたいわけじゃないし」

唯「はいはい。そ~いうことにしといてあげるよ」

唯ちゃんはあきれたように肩をすくめながら、もの言いたげな笑みをおれに向けてくる。まあ、あえておれはなにも言うまい。

吉音「ねえねえ、今さら聞くのもなんだけど、ふたりが寄り道しちゃっててねずみやは大丈夫なの?」

唯「あ、うん。ぜんぜん平気だよ。今日はうちの店お休みだし」

悠「そうなの?」

唯「うん。うちの店ってたまに業者さんに清掃に入ってもらってて、その日はお休みってことにしてるんだ」

悠「へぇ~」

吉音「やっぱ繁盛してるお店は違うねぇ」

唯「あはっ。そういうのはあんま関係ないっていうか~。お店が綺麗な方が、お客さんも、働いてるボクたちも気持ちいいでしょ?だからだよ」

吉音「だってさ、悠。うちのお店も、もっとちゃんとお掃除しないとだね」

悠「おれは毎日、しっかり掃除をしてるつもりなんだがな、子供みたいに食べカスをこぼす大飯くらいが居ついてるせいで、いくら掃除をしてもキリがねぇんだよ」

吉音「そうなんだ。大変だね」

悠「おまえなぁ……」

唯「あはっ♪」

他愛もない会話をしながら、大通りへの近道などを教わりつつ、のんびりと進む。

その途中で吉音がふと足を止めて、通りかかった屋敷に目を向けた。

吉音「ねぇ。このお屋敷って、前に猫目が盗みに入ったところじゃない?」

悠「ん?この前のは、うちの近くだっただろ?」

吉音「違う違う。この前のじゃなくて、もっとずっと前。……ってそっか。悠はこの前のが初めてだったんだっけ。もつたいないなー。このお屋敷での騒ぎ、面白かったのに」

悠「面白かったって?」

吉音「うんとね、このお屋敷のご主人さんて、すっごく気が強いんだって。でね、何度も猫目に出し抜かれる奉行所なんて信用できないって、金ちゃんにケンカ売っちゃってさ、金ちゃんもアレでしょ?だから、ものすごい言い合いとかになっちゃって……そんなことが瓦版にとりあげられちゃったから、猫目が盗みに入る前からすごい騒ぎになっちゃったんだ」

悠「はあ……」

唯「思い出した。あの時のお屋敷なんだ」

それまで黙って吉音の話を聞いていた唯ちゃんが、ぽんっと手を打った。
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