ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ーかなうの養成所ー

悠「……っか、だったら、はっきりと本人に言ってやればいいじゃないか。意外と喜びそうなのに」

おれは言わずもがなのことをいってみた。

関口「そんなこと……っ。出来ればとっくにやってます!」

まぁそりゃそうなんだろうなあ。

悠「しかし……当の思い人相手に相談に来るなんて……。よくやりますね」

関口「いやその、毎回今日こそは告白するぞ!って意気込んではくるんですが……」

悠「当人を目のまえにすると言い出せなくなってしまう」

関口「そうなんです。そして居もしない、架空の女性をでっちあげ先生に相談を……」

悠「いいのかよ、それで……かなうさん、けっこう鈍感というか単純だから、ちゃんといわないといつまでも気づかないぞきっと」

関口「うう…………わかってるんですが…………でも…………」

悠「でも?」

関口「こうやってときどきお話しできるだけで、今はもう満足で……」

再び関口はうっとりと目を輝かせた。

悠「……」

関口「そうだ!」

悠「あー?」

関口「お願いがあるんですっ」

悠「おねがい、だと……?」


~お願い中~


かなう「なんだ、あいつの相談はもういいのか?」

悠「いいっていうかなんていうか……、とりあえずいろいろ参考にかなうさんにも話しを聞こうと思って」

かなう「参考?私の話しをか?面倒だなあ……」

悠「あ、これ。朱金から預かって来たイカの塩辛です」

かなう「おおっ!こいつは……。おう、なんでも聞いてみろ。答えてやる。」

よかった賄賂が効いた。

悠「じゃあ聞きますけど、かなうさんは彼氏とか居るんですか?」

かなう「はあ?なんで私にそんなことを聞く……っ」

悠「参考。参考ですよ、関口の相談に乗るのに必要なんです。」

かなう「……むう。なんだかわからんが……、いるように見えるか?残念ながらおらん」

悠「ま、そうでしょうね。じゃあ好みの男性像とかは」

かなう「好みの男か……ううーん、そうだなあ。五体満足な男が良いな」

悠「……また大雑把だなぁ……」

かなう「いやいや、これで意外と細かいのだぞ。歯並びは欠けなく崩れなく。骨盤はぶ厚いのがいい。無駄な筋肉がついているのいかんが、といって脂肪がつき過ぎもいかん。あれは手術のとき困る」

悠「……それってなんですか。手術しやすい患者?」

かなう「……うむ」

悠「恋愛の対象の話しをしているんですよ?共通の趣味があった方がいいとか、食べ物の好みとか」

かなう「そんなこと言われても分からんっ」

かなあさんはうるさそうに手をひらひらと振って見せた。

悠「……」

かなう「惚れたの腫れたの、そんなことに興味はないんだ。お前だって、そのくらいわかるだろ」

悠「……まあ……ね。なんとなく想像はついてましたけど。こっちにも事情があるんです。」

かなう「事情?」



~もとに帰って~



悠「……というわけだ。あれはあきらめ方がいいんじゃないかなあ」


関口「ありがとうございました……でも僕……あきらめませんっ。そのうちきっと刀舟斎先生を振り向かせて見せます!」

悠「……まあめげないことはいいこと……なんだよな?きっと」

おれはなんだかもやもやした気分のまま、養成所をあとにした。兎にも角にも、朱金の頼みは果たしたんだしな。
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