ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー日本橋:商店通りー

はじめ「……」

佐東は、無言でスタスタ歩きだした。

不良生徒A「てめぇ!無視すんじゃねえぞ!?」

もう一度、不良は回りこんで佐東の行く手をふさぐ。

はじめ「付き合ってられないね。そもそも借金までして博打を打つなんて、大馬鹿以外の何者でもない」

不良生徒A「ぁんだとぉ!?」

はじめ「そんな大馬鹿、話すのも面倒だ。さっさとボクの目のまえから消えてくれ」

あ……ヤバいな。気が立ってる相手に、そんないい方したら……

不良生徒A「このアマぁ、優しく言ってりゃ調子に乗りやがって!おい、お前ら!死なねぇ程度にこいつを痛めつけてやんな!」

そついを合図に、回りを取り囲んでいた不良どもが、一斉に佐東に襲い掛かる。

はじめ「やれやれ……。せっかく優しく言ってあげてたのに、調子に乗ってるのはどっちかな」

そういった佐東さんの体が、わずかに揺らいだ。そして次の瞬間、地面に倒れていたのは襲い掛かった不良どもだった。

不良生徒A「な……」

はじめ「残っているのはキミだけだね。覚悟しな」

不良生徒A「ぐあ……っ!」

最後に、号令をかけていた頭を叩き伏せる。

悠「すげぇ……」

圧倒的に強い。あんな華奢でちびっこい身体のどこに、あんなパワーが隠れているんだ。いや、パワーじゃないな。あれはスピードと、正確に急所を打つ技術だ。

不良生徒A「ぐっ……!」

彼女は倒れているリーダーに近づくと、持っていた杖を突き付けた。

はじめ「峰打ちだよ。でも、急所を狙ったからね。しばらく立てないだろう。博打の負けを、他人の責にするんじゃない。その責が負えない人間に、博打を打つ資格はない。それがわからないなら、もう二度と博打になんて手を出すんじゃない」

そういって不良どもを諭す。だが……

男子生徒A「なあ……だれか教えてやれよ」

男子生徒B「い、いやだよ。おっかねえ……」

今の立ち回りで、佐東のスカートが大きくめくれ上がり、ひっかかったまま留まっていた。

薄黄色の可愛らしさとスポーティっくなのにどこか幼さがあるパンツ。ただ、カッコいいシーンが台無しだ。事の成り行きを見守っていた通行人たちも、彼女の強さに恐れをなして、それを言い出せないでいた。

佐東はそれに気付かないのか、くるりと不良どもに背を向け、また歩き出す。

悠「丸見えのままだし……お、おーい、そこの用心棒さん」

……思わず声をかけてしまった。

はじめ「やれやれ……まだ何かボクに用?」

悠「いやー……そうでなくてさ……見えてるぞ」

はじめ「?ボクは目隠ししてるから、なにも見えないけど」

悠「いや、そうじゃなくてな、その……」

はじめ「言いたいことがあるなら、簡潔にいってくれないか。まだるっこしいのは嫌いなんだ」

悠「……わかった。単刀直入に言う。怒るなよ」

はじめ「……」

予防線を張ってから、一回深呼吸して、そして。

悠「スカートめくれて、パンツ見えてる。」

何の装飾も比喩もなし。希望通り、単刀直入にいった。

はじめ「…………そう」

だが……佐東は興味ないといった様子で、そのまま早足でスタスタと言ってしまったのだった。……パンツを見せたまま。

悠「お……おーい……」

あ。

コウモリ『キィ……』

コウモリが降りて来て、佐東のスカートをきちんと直した。甲斐甲斐しいなあ。

それにしても……

悠「どうにもよくわからないひとだなあ」

……ま、いいか。おれも早く買い物済ませて帰ろうっと。
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