ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー日本橋:商店通りー

悠「えーと……煎茶と玄米茶は買った。あとは……ああ、餅粉餅粉。ちょっと多めに買っておいた方がいいかも知れないな」

いつものように店を吉音に任せ、おれは大通りまで買い物に来ていた。買い出しの品はお茶、それからお茶菓子の材料。お茶くらい、わざわざ町まで出て来なくたって買えなくは無いけれど。でも、一応はうちの看板商品なわけだし、それなりのこだわりはある。

小鳥遊堂で出しているお茶は京の老舗から取り寄せた、100グラム1000円という高級品だ。ちなみに裏に「小鳥遊茶農園産」と書いてあるのは見ないふり。こんな高級茶、正直コスト的に厳しくはあるけれど。

うちのお茶をおいしいといって通ってくれる常連客のためにも、京都の梔姉さんの働きに報いるためにも、中途半端なものを出す気は無いのである。

はじめ「……」

そのとき、目のまえを見覚えのある、というより忘れ様のない恰好をした女の子が歩いてるのを発見。

悠「あの子は……越後屋の用心棒の……」

名前は佐東はじめ。いつも目隠しをしている、不思議な女の子。目隠しをしているのにもかかわらず、誰とぶつかるようなこともなく、すいすいと歩いている。……あ、街灯にぶつかった。

はじめ「あいたた……ああ、そうか。悪いね、カツ」

佐東はぶつかった後、何やら独り言をいって立ちあがる。

『キキッ』

悠「……ん?」

気がつくと、彼女の頭上を何か黒い物体が飛びまわっている。

『キキッ』

なんだありゃ……コウモリ?

悠「こんな昼間からて……?」

コウモリっていうのは、だいたい夕方から夜の時間帯にかけて活動する生物だと思ったけど。

コウモリ『キキキッ』

はじめ「大丈夫だってば。カツは心配性だなあ」

ああ……独りごとじゃなかった。どうやら彼女は、あのコウモリと話をしていたらしい。たぶん、あれは彼女の「剣魂」なんだろう。と、その時だった。

不良生徒A「よう……ちと話があるんだがな」

彼女の前に数人、ガラの悪そうな男が立ちはだかった。

はじめ「……誰?」

不良生徒A「誰でもいいじゃねえか。あんた、越後屋の関係者だろ。ちとそこまで付き合ってくれねえか」

はじめ「…………」

不良生徒A「なに、手間は取らせねえよ。ちとこのあいだの勝負の件で、越後屋のダンナに言わせてほしい事があってな。」

佐東は、ため息をひとつ吐く。

はじめ「そういう話しなら、直接旦那にしてくれないか」

不良生徒A「あぁ?」

はじめ「ボクはただの用心棒だよ。何を話されても、キミ達の期待にそえるようなことは何もできないと思うけれど」

不良生徒A「スカしてんじゃねえぞコラァ!!」

突然、不良が怒鳴る。

はじめ「いきなり怒鳴らないでくれないか。耳が痛い」

不良生徒A「いいか……オレはあの勝負に、借金までして挑んでたんだぞ。狙いが外れてオケラになるんだったら諦めもつく。が、まともなレースも出来ねえとはどういうこった!」

あー……それは、申し訳ない。

はじめ「………」

不良生徒A「払い戻しだ?んなもんなんの足しにもならねぇ。結局俺は利子分損しただけなんだが、どうしてくれるんだ。この責任は、越後屋さんはどう取ってくれるっていうんでしょうか、ああ!?」

はじめ「…………」

悠「……」

おれたちが……いや言い訳をさせてもらえるなら、あれは逢岡さんが提案したことだ。越後屋や佐東にばかりに当たられるのは、ややなんというか、胸が痛い。
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