ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ーとある境内ー
吉音「でねでね、悠。詠美ちゃんね、穴のことで悠に話があるっていうの」
悠「穴?おれに?」
詠美「悠でも八坂さんでも、どちらでも構わないの。要は、この穴掘りをいますぐ止めてもらいたいだけだから」
平和「へ……止める?」
平和の疑問に答えず、徳河さんはさっと片手をあげる。ソレを合図に、ずっと着き従っていた執行部員たちが穴の中に飛び込んでいった。
信乃「ごめんなさぁい」
つばめ「残念ですわ……」
執行部員の手で穴ののかから引っ張り出された二人は、それぞれの顔で悄然としている。
詠美「そんな顔をされても、勝手に穴を掘られても困るの」
信乃「はい……すいません……」
平和「でも、もうちょっと掘ったら温泉がわきそうな……」
詠美「学園島は人工の島よ。どれだけ掘っても、突き当たるのは源泉ではなくコンクリート」
平和「へっ……」
つばめ「あ~、言われてみれば~」
信乃「じゃあ、え……どこを掘っても温泉が出て来なかったのって、深さが足りなかったからじゃなくて……」
詠美「そう。単純に、どこを掘っても温泉なんて沸くわけがないからよ」
平和・信乃「「がーんっ!!」」
詠美「学園の地下には、保守整備や各種配線用にたくさんの通路が張り巡らされているの。それに接触してしまうと、学園の施設だけでなく、あなた達まで危険な目に遭ってしまうわ」
平和「だったら、もっと早くいってよぉ!」
信乃「うぅ……いっぱい掘ったのにぃ……」
つばめ「薄々、そんな気はしていたんですよねぇ……」
三人はがっくりと肩を落として嘆いている。みているこっちの方まで居たたまれなくなってくる落胆ぶりだ。
吉音「三人とも、元気出して……」
とにかく元気づけようとしてか、吉音は三人に言葉をかけようとする。けれど、その言葉を遮るようにして、徳河さんが両手をぱんと打った。
詠美「いいわ、こうしましょう」
平和「こうする……?」
詠美「温泉は物理的には無理だけど、その考え自体は賛成よ。だから、銭湯を造るというのはどう?」
信乃「わぁ……できるんですか、そんなこと?」
詠美「できるかどうかも含めて、先生方と協議を進めていくことになるわ。大がかりなインフラ工事となると、先生方や理事会の許可がいるのよ」
つばめ「はぁ……なんだか大事になってきましたね」
詠美「あら、他人事じゃないのよ。貴方たちにも発案者として交渉に加わってもらうんだから」
信乃「ええぇっ!?」
つばめ「あらまあ、なんだか本当に大事ですけど……ですけど、探偵団としては有名になる大チャンスですね、姫様」
平和「うん……」
つばめ「あら、姫様?嬉しくないんですか?」
平和「あっ、ううん。それは嬉しいんだけど……」
信乃「だけど?」
平和「あのね……せんとうって、なぁに?」
信乃「えー……」
つばめ「姫様は、伊達に姫様じゃないですのね~」
平和「わっ、分かってるんだよ!いまはちょっと忘れてるだけなの!」
つばめ「はいはい、分かってますよ~」
平和「ほっ、ホントなんだからぁ!」
詠美「……とにかく、銭湯を造るという方向で話を進めてもいいのかしら?」
つばめ「はい、それはもう~」
信乃「よ、よろしくお願いしますっ」
詠美「それじゃあ早速だけど、色々決めてしまいたいから、一緒にきてくれる?」
「「「はいっ」」」
放っておくと脱線ばかりの三人を手際良くまとめて、徳河さんはくすりと笑う。
詠美「じゃあ、いきましょう。大江戸城に着いたら、まずはシャワーね。随分と汗を掻いたようだし」
「「「は~い」」」
三人はそろって元気良く返事した。遠足にきた子供達と引率の先生、といった感じだ。いつもは少し冷たい感じがする徳河さんも、この三人が相手だと印象が柔らかくなるようだ。
そんなことを考えていたら、ふと顔を上げた徳河さんと目があってしまった。
詠美「……何をみているのかしら?」
悠「あー、いや、変なことは思ってませんよ……ぁ」
言わずもがななことを口走ったおれに、徳河さんは残念そうな顔でため息を吐く。
詠美「……ああ、そうね。折角だから、悠と徳田さんには後始末をお願いするわ」
悠「後始末?」
詠美「ええ、そう。そこの穴を埋めておいて」
悠「なんでおれが!?」
吉音「うん、分かった!あたしたちに任せて!」
悠「おい、こらっ!勝手に引き受けるな!」
詠美「ありがとう、徳田さん。それじゃあ、よろしく」
徳河さんはおれの反論を待たずに、三人組や執行部員を引き連れて、帰っていってしまった。
吉音「えへへー、よろしくっていわれちゃったぁ」
吉音は吉音で、徳河さんからの頼みごとをされたのが余程うれしいのか、頬が緩みまくりだ。
悠「はぁ……まあ、しょうがないか」
おれはぐったりと溜息を吐きながら、三人が掘っていた穴の底を除きこむ。徳河さんのいっていたコンクリート層までは流石に達していないけれど、それでもかなり深い。これをふたりで埋めるのか……。
吉音「悠、そんなところでボーっとしてないで、早く穴を埋めちゃおうよ」
悠「ん……そうだな」
こうして突っ立っていても仕方がない。おれと吉音は、三人組が置いていったシャベルを取ると、えんさわんさと穴を埋めにかかるのだった。ああ……今夜は筋肉痛で眠れなさそうだ。
吉音「でねでね、悠。詠美ちゃんね、穴のことで悠に話があるっていうの」
悠「穴?おれに?」
詠美「悠でも八坂さんでも、どちらでも構わないの。要は、この穴掘りをいますぐ止めてもらいたいだけだから」
平和「へ……止める?」
平和の疑問に答えず、徳河さんはさっと片手をあげる。ソレを合図に、ずっと着き従っていた執行部員たちが穴の中に飛び込んでいった。
信乃「ごめんなさぁい」
つばめ「残念ですわ……」
執行部員の手で穴ののかから引っ張り出された二人は、それぞれの顔で悄然としている。
詠美「そんな顔をされても、勝手に穴を掘られても困るの」
信乃「はい……すいません……」
平和「でも、もうちょっと掘ったら温泉がわきそうな……」
詠美「学園島は人工の島よ。どれだけ掘っても、突き当たるのは源泉ではなくコンクリート」
平和「へっ……」
つばめ「あ~、言われてみれば~」
信乃「じゃあ、え……どこを掘っても温泉が出て来なかったのって、深さが足りなかったからじゃなくて……」
詠美「そう。単純に、どこを掘っても温泉なんて沸くわけがないからよ」
平和・信乃「「がーんっ!!」」
詠美「学園の地下には、保守整備や各種配線用にたくさんの通路が張り巡らされているの。それに接触してしまうと、学園の施設だけでなく、あなた達まで危険な目に遭ってしまうわ」
平和「だったら、もっと早くいってよぉ!」
信乃「うぅ……いっぱい掘ったのにぃ……」
つばめ「薄々、そんな気はしていたんですよねぇ……」
三人はがっくりと肩を落として嘆いている。みているこっちの方まで居たたまれなくなってくる落胆ぶりだ。
吉音「三人とも、元気出して……」
とにかく元気づけようとしてか、吉音は三人に言葉をかけようとする。けれど、その言葉を遮るようにして、徳河さんが両手をぱんと打った。
詠美「いいわ、こうしましょう」
平和「こうする……?」
詠美「温泉は物理的には無理だけど、その考え自体は賛成よ。だから、銭湯を造るというのはどう?」
信乃「わぁ……できるんですか、そんなこと?」
詠美「できるかどうかも含めて、先生方と協議を進めていくことになるわ。大がかりなインフラ工事となると、先生方や理事会の許可がいるのよ」
つばめ「はぁ……なんだか大事になってきましたね」
詠美「あら、他人事じゃないのよ。貴方たちにも発案者として交渉に加わってもらうんだから」
信乃「ええぇっ!?」
つばめ「あらまあ、なんだか本当に大事ですけど……ですけど、探偵団としては有名になる大チャンスですね、姫様」
平和「うん……」
つばめ「あら、姫様?嬉しくないんですか?」
平和「あっ、ううん。それは嬉しいんだけど……」
信乃「だけど?」
平和「あのね……せんとうって、なぁに?」
信乃「えー……」
つばめ「姫様は、伊達に姫様じゃないですのね~」
平和「わっ、分かってるんだよ!いまはちょっと忘れてるだけなの!」
つばめ「はいはい、分かってますよ~」
平和「ほっ、ホントなんだからぁ!」
詠美「……とにかく、銭湯を造るという方向で話を進めてもいいのかしら?」
つばめ「はい、それはもう~」
信乃「よ、よろしくお願いしますっ」
詠美「それじゃあ早速だけど、色々決めてしまいたいから、一緒にきてくれる?」
「「「はいっ」」」
放っておくと脱線ばかりの三人を手際良くまとめて、徳河さんはくすりと笑う。
詠美「じゃあ、いきましょう。大江戸城に着いたら、まずはシャワーね。随分と汗を掻いたようだし」
「「「は~い」」」
三人はそろって元気良く返事した。遠足にきた子供達と引率の先生、といった感じだ。いつもは少し冷たい感じがする徳河さんも、この三人が相手だと印象が柔らかくなるようだ。
そんなことを考えていたら、ふと顔を上げた徳河さんと目があってしまった。
詠美「……何をみているのかしら?」
悠「あー、いや、変なことは思ってませんよ……ぁ」
言わずもがななことを口走ったおれに、徳河さんは残念そうな顔でため息を吐く。
詠美「……ああ、そうね。折角だから、悠と徳田さんには後始末をお願いするわ」
悠「後始末?」
詠美「ええ、そう。そこの穴を埋めておいて」
悠「なんでおれが!?」
吉音「うん、分かった!あたしたちに任せて!」
悠「おい、こらっ!勝手に引き受けるな!」
詠美「ありがとう、徳田さん。それじゃあ、よろしく」
徳河さんはおれの反論を待たずに、三人組や執行部員を引き連れて、帰っていってしまった。
吉音「えへへー、よろしくっていわれちゃったぁ」
吉音は吉音で、徳河さんからの頼みごとをされたのが余程うれしいのか、頬が緩みまくりだ。
悠「はぁ……まあ、しょうがないか」
おれはぐったりと溜息を吐きながら、三人が掘っていた穴の底を除きこむ。徳河さんのいっていたコンクリート層までは流石に達していないけれど、それでもかなり深い。これをふたりで埋めるのか……。
吉音「悠、そんなところでボーっとしてないで、早く穴を埋めちゃおうよ」
悠「ん……そうだな」
こうして突っ立っていても仕方がない。おれと吉音は、三人組が置いていったシャベルを取ると、えんさわんさと穴を埋めにかかるのだった。ああ……今夜は筋肉痛で眠れなさそうだ。