ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ーとある境内ー

平和「ふれーふれーっ、つ・ば・め!がんばれがんばれ、てーんっごく!」

悠「……何をゃってるのか、いちおう聞いてもいいかな?」

平和「あっ、悠さん。どうしたんです……ござるか?」

悠「いちいち言い直さなくていいよ。外から賑やかな声が聞こえてきたから覗いてみたんだけど……平和たちは、まだ温泉探しか?」

おれは、境内の片隅にぽっかりと開いた大穴を覗きこみながら聞いてみる。穴のなかからは、覗きこむ前から穴を掘っている音が外まで聞こえてきていた。

平和「はい、そうでござる。今度こそ温泉がわいてくるって予感がヒシヒシとしてるでござるよっ」

実のところ、平和たち三人がここで穴を掘っているというのは最初から知っていた。この前、逢岡さんから聞いた話からちょくちょく聞き込みをしてみると探偵団の三人が学園中に穴を掘りまくっているというのは、学園中で噂になっていたからだ。ところかまわず穴を掘っていたらイヤでも目立つ。

まして、日頃から奇行に評定のある三人だったから、失笑混じりの噂にならないはずもない。

悠「それにしても……今回はまた、随分と深く掘ったな」

平和「キラとナイゼン、大活躍でござるよ」

悠「マミヤは?」

平和「頑張ってるでござるよ……応援で」

悠「応援、ねぇ」

平和「まっ、マミヤは探すの頑張ったんだから、いいのっ!」

悠「はいはい……で、この穴はまだ掘るつもりなのか?」

平和「もちろん!温泉がわいてくるまで掘るでござるよ!」

これはまた随分と意欲的だな。いって諦めるような子たちじゃないし、とことんまでやらせてあげる方が良いのかもな。幸いここだったら人もあまり来ないだろうし。

悠「……よし、じゃあおれたちも手伝わせてもらうよ。新もそろそろ来ると思うし」

平和「おおぅ、手伝ってくれるんですか!」

悠「満足してもらえるんなら、協力は惜しまないさ。ほら、掘るぞ。シャベルくらいは用意しているんだろ」

平和「天国が用意してたなら、ありますけど……え、え?もしかして、私が自分で掘るんですか……?」

悠「みんなで掘ったほうが早いだろ」

平和「……そうですね。探偵団の団長たるもの、穴に飛び込むくらい、できて当然ですよねっ」

平和はけっこう深い穴を縁から覗きこんで、ごくりと息を飲んでいる。深いと言っても、飛びおりて怪我をするほどじゃないと思うのだが……。

悠「平和、大丈夫か?」

平和「だっ、大丈夫でござるよ!怖くないでござるよっ!」

悠「……おれが先に降りて抱っこして下ろしてやろうか?」

平和「えっ?!へ、平気だもん!」

悠「あっそ。じゃあ、どうぞ」

平和「……ど、どうしてもっていうんなら下ろしてくれてもいいでござるよ」

悠「なんじゃそりゃ……」

吉音「悠ぅ、お待たせ~」

平和「あっ、新さん。こんにちはーでござるー。」

向こうから手を振りながらやって来た吉音を見るなり、平和は穴を離れて、ぱっと掛け寄っていく。おやおや、随分ホッとした様子だこと。あの小娘……。

吉音「あれ、姫様ちゃんもいたんだー。悠と一緒に穴掘りしてたの?」

平和「いえいえ、拙者たちが先に掘っていたところに、悠さんが後からやって来たのでござるよ」

平和は、順番が大事だとばかりに訂正する。

詠美「どちらが先でも後でも構わないけど、困るのよ」

平和「わわっ、詠美さんっ」

吉音「うん。そこで会って、一緒に来たの。なんかね、話があるんだって」

悠「なるほど、それで遅れて来たのか」

吉音がさっきから上機嫌だったのは、徳河さんと一緒だったから。徳河さんのほうはいつもの澄まし顔だし、後ろには執行部の生徒たちが付き添っている。何処からどう見ても公務の最中で、たまたま行き先が一緒だったたけ……という態度だ。

まあ、吉音はそれでも嬉しいみたいだけど。
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