ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂(半修理)ー

吉音「いっただっきま~す♪」

唯「いただきます」

おごりの団子に遠慮もなく食らいつく吉音を横目に、唯ちゃんは湯呑みに口をつけている。

悠「今は休憩?」

唯「うん。お客さんの流れがちょっと途切れたから、少しだけね」

吉音「うちはいつも途切れてるから、ずっと休憩みたいなもんだよね~」

悠「うっせーぞ。テメェ明日の昼は自腹と思っとけ」

吉音「あ~ん、ウソウソ、ごめんてばー」

唯「あはっ♪」

唯ちゃんは楽しそうに笑いながら、上品に茶菓子を切り分けていた。そうして口に運び、舌包みを打ちながら、ふと視線をおれの方に向けてくる。

悠「?」

唯「♪~」

悠「どうかした?」

唯「えっ?なんで?」

悠「いや。なんかにこにこしてるからさ」

唯「あ~……」

唯ちゃんはなにやら考え込むように視線を上に向ける。だがすぐに視線をこちらに戻すと、またにっこりと可愛らしく微笑んだ。

悠「ん?」

唯「悠さんと一緒にいるからかな」

悠「はい?」

唯「なんかね、悠さんと一緒に居るとわくわくするんだ」

悠「わくわく?」

唯「うん。今まで、こんな身近に男の人がいたことってないから」

悠「そうなの?」

唯「うん。だってうち、男兄弟っていないし。クラスメイトとかお客さんとか、それなりにはなしたりはするけど、まあそれだけって感じだしね」

悠「親父さんは?」

唯「ボクが物心ついたころには、もういなかったし」

悠「……え?」

一瞬、さらりと聞き流しそうになったが、思いもよらない唯ちゃんの発言にあぜんとしてしまった。

唯「あれっ?いってなかったけ?」

悠「ああ、初めて聞いた。」

唯「そっか。ごめんね、なんか変な気遣わせちゃって。でも、ボク自信があんまり気にしてないから、つい」

吉音「どんなお父さんだったの?」

悠「おい」

空気を読めない質問をする吉音にあきれ、思わずツッコミを入れてしまいそうになった。

唯「いいよ別に。ほんと気にしてないし。でもボク、あんまりお父さんのこと覚えてないんだよね~。一番記憶に残ってる思い出っていうと……仕事の時に膝に乗せてもらってたことかな」

吉音「ゆいにゃんのお父さんて、どんな仕事してたの?」

唯「えっ?と、その……確かプログラマーだったかな?」

悠「プログラマーか。じゃあ唯ちゃんが機械に強いのは、親父さん譲りだったりするんだ?」

唯「そ~かもねっ」

照れくさいのか、唯ちゃんは湯呑みを持ち上げて口元を隠す。そうして一服した後、不意に唯ちゃんが身を乗り出しておれに顔を近づけてきた。

悠「む?」

唯「ねぇ。そんなことよりボク、悠さんのこと聞きたいんだけどな~」

悠「おれのことって?」

唯「ん~……たとえば、外の生活の話とか?」

悠「外の生活、か」

唯「どんなところに住んでるの?」

悠「どんなって……ボロクてデカイ家かな?親父は世界中飛び回ってるし、おふくろはガキの時死んで、爺のところに転がりこんでてた」

唯「へぇ~。じゃあ、悠さんはお母さんが…」

悠「あー、それは気にしないでくれ。」

唯「うん、じゃあ、学校もお祖父ちゃんの所から通ってるの?」

悠「まぁ、(一応)そうかな。今では爺も婆ちゃんも死んだから。のんびりと一人暮らし」

唯「そうなんだ……それで、どんな学校?」

悠「普通だな。大江戸学園と比べたら」

唯「ここと比べたら、どこだって普通だろうけど……あっ、そうだっ」

悠「あー?」

なぜか唯ちゃんがにんまりと笑みを浮かべる。嫌な予感がしたので、仕事を理由に逃げ出そうかと考えたものの、再び唯ちゃんが口を開く方が早かった。
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