ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂(応急処置)ー

吉音「あ、そうだ~っ!悠も、いくみんにマフラーとかセーターとか編んでもらったら?」

悠「あー?」

吉音「悠、編んでもらいたくないの?」

悠「そんなことはないが……本当にいい出来だと思うし……縫ってくれるっていうんなら……」

おれはわりと期待を込めた目で、中村さんの顔をちらりと見やる。

往水「嫌ですよう。殿方に手編みのものを送るなんて、アタシにゃ乙女チックすぎてハードル高すぎです。」

返ってきたのは、にべもない答え。

悠「というか、そんなつもりでいったんじゃないんだからね!変な勘違いしないでちょうだい!」

往水「おっ、ツンデレですか?」

悠「おれのツンデレ力は53万です……って、違う」

往水「はい、できました……っと」

悠「おっ……」

中村さんはマフラーを巻き直して立ちあがる。軽口を言い合っているあいだに、繕い終わっていたらしい。なんとも手際のいいものだ。

往水「さて……お茶とお菓子もいただきましたし、そろそろ仕事に戻りますかね」

そういわれてお盆を見下ろすと、いつの間にかお茶もお菓子も消えていた。これも手際が良いというのか、なんというか……。

吉音「ご来店、ありがとうございましたー。またのお越しを~」

呆れているおれの代わりに、吉音が笑顔で見送りの会釈をする。

往水「は~い、また明日」

中村さんは手を振る代わりに十手をあげると、雑路にたちまち紛れていった。

吉音「ビックリしたね~。いくみんに、あんな隠れた特技があったなんて」

悠「あー、驚いたな……たぁだ、当たり前のようにお代を払わずかえっていくのには、もっと驚いているよ。」

吉音「でもでも、いくみんがお代を払っていったら、もっともっと驚いていたと思うな」

悠「……それもそうか」

つまり、これが自然な流れだったということか……と、納得している自分に、一番驚かされたのだった。

吉音「ねぇー、。働いたしぃ~私にもおやつ……」

悠「あ、ちょいまて!買い物しとかないともう材料がないんだ。おれ、出てくるから店番頼むな」

吉音「ええっ?!ちょ、悠ーーーー!!!」




ー大通り外れー

すっかり日が暮れて遅くなってしまった。大通りの方はまだまだ賑やかなようだけど、こっちは自分の足音がうるさいくらいに静まり返っている。買い物という名目(まぁ、買い物もあったが)でうろうろしてたら思いのほか時間が経ってしまった。

「お、悠じゃないか」

突然声をかけられ、顔をあげると、そこにいたのは長谷河さんだった。

悠「あー……長谷河さん、夜回りっすか。おつかれさまです」

平良「どうにもお前は、私に仕事をさせたいようだな」

悠「いえいえそういうわけでは……違ってましたか」

平良「まぁそれを兼ねてはいるが、届け物をする途中でな……そういえば、お前は詠美の家を知っていたな」

悠「徳河さんですか?はぁ、まぁ知ってます。以前一緒にお邪魔しましたよね」

平良「ああ。というわけで、これを詠美の所まで頼む」

と、紙包みを手渡された。片手で持てるほど軽いもの。本かなにかかな?

悠「いやいや、受け取っちゃったけど、なんでおれが……」

平良「巡回の途中で渡しに行こうと思っていたが、あまり褒められたことではないからな。もし手間だというなら、断ってくれても構わないんだが」

徳河さんの家は、ここからだと少し歩かなければならない。でも小鳥遊堂までの道のりを考えれば、ほんの少しの遠まわりで済む。特別労力がいるわけでもないし、断るほどの理由は無い。

悠「けどこれなんなんすか?もし重要なものだったりしたら……」

平良「そんなに大層なものじゃない。気にするな。ああ、でも中身を見るのは、彼女の許可をとってからにした方がいいと思うぞ」

悠「それは気になりますが……わかりました。じゃあ責任を持って届けてきますよ」

平良「すまんな。この埋め合わせはいつかしよう」

悠「そりゃどうも。それじゃ、長谷河さんも気をつけて」

平良「ははは、そうだな。火盗が暴漢にやられていては、示しがつかんからな」

その姿を見て、わざわざ襲いかかろうなんて人はそうそういないと思うけどね。
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