ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

「私はね……本当に書類仕事全般な人間なんですよ。現場に出ても指揮はしても荒事は部下にお任せ。そういう人間です。」

「……それだけ采配も策略も一流ってことだろ。」

「おや、こんな私を評価していただけますか?」

「おれはなバカな奴を何人も見てきたし、知り合いもたくさんいる。それだけ馬鹿野郎の匂いは嗅ぎわけれるが……アンタからは頭のいい人間の匂いがした。だから、最初黒装束におれを襲わせたが怪我を負った時点で引かせたし専守防衛に徹しさせた……。上に立つ者としては優秀だ本当に……。」

おれは伸ばしていた拳を下げた。対して奴は斬馬刀を大きく振りかぶった。

「はは……すいませんねぇ。褒めて頂いて申し訳ないんですが腕一本で済ませますんで」

「ふっ…。」

「ひとつ野暮なこと聞きますが……そこまで吉音嬢が大切ですかぃ?」

「吉音に限らずおれはよっぽどでない限り女は誰だって大切なつもりだよ。光姫さんだったとしても、朱金だったとしてもな……」

「ほほぅ……いやはや、素晴らしい。男として尊敬しますよ小鳥遊さん。」

「はは……そいつは買いかぶりすぎだな。女は確かに大切だが……おれはヒーローじゃない。」

下ろした拳をそっと左近の腹に当てる。数センチほどの空間シキサイに阻まれるが……この技術(わざ)に鎧は関係ない。おれの肩が僅かに揺れて、左近は顎を角度を落とした。数秒間、俺たちはその体勢のままこう着する。

「おれには弱みを盾にしても、人質を取ってもタイマンのでなら止めれねぇよ。おれが恨まれるならいくらでも恨まれてやるからな」

肩を突き飛ばすと、よろめきながら後ずさり、左近は体液を吐きだして膝を着いた。セットした髪を乱しつつおれを睨みあげた。

「ぅっ……ぇえッ……あ、たっかなし……さん?コレはっ……なんですっ?」

「寸剄……浸透剄ともいうな。中を撃たれるのは効くだろ?」

「は、はは……アンタ、ひねくれ者の善人かと思ったら、ひねくれ者の善人の皮を被った悪魔だなっ……。」

おれは舌を出していった。

「べーっ、おれは善人なんていった覚えはないし、悪魔といわれるのは不本意だ。せいぜい自分に素直な嘘つきだよ……っか、分かってるか?おれはわりと今怒ってるんだぞ。」

「へぇ……どうなるんです?私は…?」

「動けなくして、朝まで軟禁する。そして明日になったらテメェのご主人様の元へ案内させる。異論は認めん」

「合理的だ。でも……小鳥遊さんがそーいう手で来るなら私も全力な力づくでいくしかありませんねぇ!」

「ん゛っ?!」

奴は跪いた体勢で手を横に振った。おれは太もものあたりにとてつもなく鋭利で重い塊りがぶつかった衝撃に弾き飛ばされる。自分の店の柱に背中から突っ込んでしまった。息が止まるほどの激痛。背中より足だ。奴は何をした……まさか神姫みたいに空気を刃状にして断つ爪を使ったとでも言うのか。おれが色々と考えながら立ちあがると奴も立ち上がった。

「ふつーに立ってくれますねぇ。足とか折る気でやったのに……片手じゃやっぱり威力が足りなかったか。」

左近はまるで何かを振り回しておれを殴ったかのような口ぶり…………何かを振り回した?おれは奴の両手見た何ももっていない。そう、持っていないのだ。あれだけドデカくて目立つ斬馬刀が影も形も見えなくなっている。

「勘のいい小鳥遊さんならもうお気づきでしょう。そうですよ、シキサイの透明化です。無影斬馬刀」

やつが手を振るうと風圧がこっちにまで吹き届いてくる。それにしても音が聞こえない……そういえばあのトカゲ消えてる時は無音で近づいてきてたっけ……ステルス+消音の剛剣なんてかなりチート臭い。

「私は一度もシキサイの姿しか消せないなんて言ってませんよ?」

おれは上着を一枚脱ぎすてていった。

「そうだったな……いいぜ、上等だ。手品野郎、こっちだって嘘つきの戦い方ていうのをみせつけてやらぁ!!」

「それはそれで威張って言うセリフじゃないと思いますけど……シキサイ、頼みますよ。あの人、脱げば脱ぐほど強くなる人種らしいですから、シャツを脱ぐ前に今度こそ四肢を折ってしまいましょう」

『しゃしゃー!』
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