ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

左近「いやぁ、今夜はホントいい月夜ですねぇ。」

悠「……確かにいい月夜だ。こんな夜は女の裸で酒を飲んで湯けむりを楽しみたいぜ」

左近「はっはっはぁー贅沢な望みですねぇ。っていうか、さっきと言ってること変わっちゃございませんかい?」

悠「こーゆーのは気分で変わるんだよ」

左近「なるほど。まあ、なんでもいいですが……今夜は本気でいかせてもらいますよ?」

悠「遠慮する帰ってくれ」

左近「そいつは無理な御相談ですっと!」

横薙ぎに一刀。刃というにはあまりにも無骨な鉄の板が襲ってくる。

悠「風の面を……圧すように叩くっ!」

右手で風壁を発生させて強撃を受け止める。とてつもない質量の斬撃。素手で受けたら粉砕骨折していただろう一撃もしっかりと押さえとめた。更に左手で空気の面を圧して斬馬刀を弾き返してやった。

いかに巨大な刀を片手で振るっている左近といえど打ち返し返しは出来なかった。それでも地面に刃を叩き落として自身に降り掛かる衝撃を最小限に分散した。突き立つ刃を引き抜いてすぐに肩に担ぎ直していう。

左近「手品師かなんかですかあなた?」

悠「ただの学生さ。っか……そっちこそどういう腕筋してんだよ」

左近「毎日担いでりゃこのくらいできますって、それをいったら鬼島さんなんてどうなりますか逞しいとはいえ……あの腕でバスをクラッシュさせるんですからねぇ。学園一の剣豪は違いますよ、まったく。」

悠「……」

鬼島さんとこの男を比べたら「強い」のは100%鬼島さんだが、戦い方が「上手い」のは左近だろう。軽口を叩きつつも自身のベストな間合いに足を運ぶ。

左近「しかし、前もよりも随分と成長していらっしゃいますねぇ。小鳥遊さん」

悠「なら、それに免じて帰っ…」

左近「そりゃ無理です」

悠「最後まで言わせろよ!」

左近「あっはっは。」

笑いながら奴は袈裟切りに刃を落としてきた。片手では無理だ。両手を伸ばして弾き飛ばそうとした寸前、下腹部に重い蹴りが突き刺さる。

悠「ぐっ!?」

左近「なるほど、不思議なバリアーも張りっぱなしなわけじゃないですねぇっ!!」

斬馬刀に気を取られ過ぎてただの前蹴りをくらってしまう。

悠「っ……なろっぉ!」

左近「おぉっ!」

引いていく奴の足首を右手で掴んで、左手を拳にして垂直にぶつけた。バキンっと手ごたえはある……が、まただ、前も体験したナニか。数センチはあるぶ厚いナニかにおれの拳が阻まれる。

悠「なんだこりゃ……。」

おれは拳を解いて左手で足首を上から掴もうとした。いや、正確にいうと足首の表面にあるナニかをだ。

左近「続けてくれていいですよ、首もらいますからっ!」

しかし、やつはそんな間を与えずに無理矢理至近距離でなぎ払ってくる。圧し捨てるように足首から手を解いておれは後ろに飛んだ。着地場所におもむろに置いてあった水桶を蹴り飛ばす。大量の水が左近に直撃した。

悠「んんっ?」

左近「っとと、びしゃびしゃでさぁ」

水も滴るいい男……ではなく、水滴がおかしなところから落ちている。というより服が濡れている部分と左近ではないナニかが濡れている部分が二層になっているではないか。透明なビニール袋を水の中で動かしたように空間が蠢いた。

悠「まさかそれ……剣魂か?」

左近「ご明察、ご紹介しますよ。私の剣魂シキサイをね。」

左近が左手をあげると見るみる内に迷彩が剥がれて色づいていく頭蓋に側頭窓が2か所あって、後眼窩骨と鱗状骨とによって隔てられ……いや、難しく言わなくてもひと言で済む単語がある「蜥蜴(とかげ)」だ。一見すると蛇かと見間違えそうになったが四肢がある。やつのシキサイとかいう剣魂はトカゲ型の剣魂。それを身体に巻きつかせて見えない鎧として装備していたらしい。

悠「どうりで打撃がとどかないわけだよ」

左近「そちらさんだって手品をつかってたでしょうが、トントンですよ。」
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