ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー住宅与力の屋敷ー

住宅与力「では、近いうちにまた仕事を回すので、それまで待っておれ」

越後屋「ありがとうございます。……ですが、その前にひとつ、お願いがありまして。」

住宅与力「なんだ?申してみよ」

越後屋「はいな。仕事そのものは、万事順調なのですが……こちらが仕事を取り過ぎたせいか、ウチが頼んでいない職人さん達の間で、不満が広がってるようでして」

住宅与力「むむ……」

越後屋「聞くところによると、奉行所に告発を考えている者もいるとか……」

住宅与力「バカな!そんな真似をすれば、そいつが贈賄に関わっていたことまで明るみになるぞ。自殺行為ではないか」

越後屋「ウチもそう思ったんですが、「このままではどうせ死ぬ。なら、殺されるのも自殺も変わらない」と……」

住宅与力「……む、むむむ……」

悠「……」

怒りを腹に溜めつつも、与力は二の句を悩んでいた。……そりゃそうだ。仕事がもらえなくて不満がたまってるのは、采配に問題があるからだ。そしてその采配を、「間違いない」と自分の手柄にしていたのは、当の本人なのだから。それを見越したうえでの狙いだとしたら……さすが越後屋という他ないな。

住宅与力「それは少々困ったことになるな……さて、どうするか……」

越後屋「もしよろしければ、ウチが収めまひょか?」

住宅与力「む!そちが何とかしてくれるのか?」

越後屋「この程度骨を折ることくらい、あなた様の為ならばお安いご用ですわ」

住宅与力「うむ、苦しゅうないぞ」

越後屋「ただ、そのためには……少々その、資金の方が必要になってしまうかと……」

住宅与力「そうか……よし、そこはわしの方でなんとか用立てよう」

越後屋「ほんまでっか?」

住宅与力「武士に二言はない」

悠「……」

悪徳役人の分際で、なにが武士だか……。

越後屋「ほな、よろしゅうたのみます。えろう、おおきに」

悠「……」

だが、おれの胸中の悪態なぞどこ吹く風と、ふたりの話しはトントン拍子で進んでいった。そう……越後屋の思惑通りに。

そして、一度動き始めた彼女は、容赦の欠片もなかった。



越後屋「先日の件、確かに処理させていただきました。訴えに出ようとしていた職人らはじめ、要注意人物は全てこちらで押えさせてもらいました」

住宅与力「ならば、もう安心ということだな?」

越後屋「その通りです……この件に関しましては」

住宅与力「この件に?なにやら持って回った言い方だな」

越後屋「はいな……実は、別の問題が持ち上がりまして。実は、仕事場の周辺を仕切る方が居りまして、挨拶料を要求されております」

住宅与力「……なんだと?」

越後屋「払わないと、仕事なぞ出来なくしてやる……そう脅されまして」

住宅与力「そのような連中なら、同心を遣わして根こそぎ捕えてくれるわ」

越後屋「ですが、どうやらそれは一種の習慣のようでして……これまでも、そうやって挨拶料をせしめていたようです」

住宅与力「ということは、もし捕まえれば……」

越後屋「……お上からのお仕事が、不良連中の温度この一部になっていたということが明るみに……」

住宅与力「そうなると、監督不行届の咎がわしに及ぶ可能性もあるのか……くぬぬぬ……」

越後屋「よもや、このような習慣があるとは知らず、そのための資金など用意してありませんので……困り果ててしまい、あなた様の温情に頼らされていただこうかとお願いにまいった次第どす」

住宅与力「む、そうか……ならば……いや、しかし……だが……」

越後屋「これさえ乗り切れば、建設業でウチも幅を利かせられます。そうすれば、今回の挨拶料をお含めして、献上させていただきますさかい」

住宅与力「うーむ……よし、分かった!わしも男だ。使用人に額を申しておけ、そちの屋敷に届けさせよう。」

越後屋「あ……ありがたき幸せに存じます!」

住宅与力「任せておけい、くっはっはっはっ」
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