ｰ新宿:小鳥遊堂ｰ

悠「ふーむ……それでしたらぁ……そうですね、逢岡さんに話を通してみましょうか?彼女でしたら、他のお役人より話が分かりますし、事情を理解してくれると思います」

吉音「そだね～。調べるのを手伝ってくれれば、大目に見てくれるんじゃないかな」

悠「酌量っていえよ、説得力無いだろそれじゃ……」

吉音「しゃくりょう?」

悠「……まぁとにかく、その……言葉は悪いですが、司法取引には応じてもらえると思います」

鷹屋「ということは、自分は罪に問われずに、住宅与力だけを訴えられる、と……?」

悠「ええ、もちろんです。一応売人としてもそういう習慣には抗いたいので、おれも口添えさせていただきます」

鷹屋「そうしていただけると、本当に助かります!」

悠「では早速、逢岡さんにお話をしに…」

越後屋「ちょっと待ってや」

悠「あー?今の話し、なんかまずったか?」

越後屋「いやいや、問題はあらへん。あらへんねんけとど……それだけで済ませるつもりなら、わざわざウチがここに来ぉへん。小鳥遊さんに任せて終わらせるわ」

……確かに、越後屋の性格を考えればその通りだ。ここからの流れは、逢岡さんと相談した上で、告発し住宅与力を裁いてもらうことになる。逆を言えば、越後屋が関わる余地がありそうに思えない。なのにわざわざ足を運んで来たということは……何か思惑があるということか。

悠「越後屋としては、どうしたいんだ?」

越後屋「お奉行さんに任せるだけでは、少々物足りへんな。こういう輩は、もっときっちり痛い目に遭うてもらうのが筋や。例えば……一泡吹いててただくとかがあれば、よろしいな」

例えばなんて言ってるけど、間違いなくそのつもりなんだろうな。そして多分、どうするかの計画も練り終わってるに違いない。越後屋ともあろう人が、案もなく話を切り出すわけがないからだ。

悠「何かプランがあるんだな。その役人に対して、打つ手が」

悠「ウチに任せてもらえるんならな。ただ、危ない道を歩くから、少しばかりお目こぼしをお願いしたいところやけど」

吉音「それって、悪事を働くけど見逃せってこと?」

越後屋「そないはっきり言われたら、かなわんなぁ」

悠「それじゃあ、逆におれ達が逢岡さんに捕まるんだが……」

越後屋「悪事ではあらしまへん。わざとそういう誘いをして、ちっとばかり心を痛めていただこうかなと」

悠「心を痛める?」

越後屋「そうやなぁ……儲け話を持ちかけて、逆に銭を絞り取るとか、どない?」

悠「それって、痛むのはむしろ懐だろ」

越後屋「あくどいことをして儲けても、結局損しますよという教訓やんか。それに……罪を償った後、銭があるよりもない生活の方が、真面目に生きていこうと思うさかいに」

む、それはなんだか、ちょっとだけ説得力があるような……。

悠「……」

越後屋「どないや?」

悠「気持ちとしては同意したいが、あまり法に触れるような真似は……」

越後屋「小鳥遊さん達も、武家のお屋敷に乗り込んで暴れたりと、散々やってらっしゃるやありまへんか」

悠「それは成り行きで状況証拠もあるし、しいていうと新がブレーキしないだけだ。」

越後屋「ウチのすることと、同じくらいのグレーゾーンやないのん?」

悠「おれらは一銭の儲けもない。それだけでもグレーでもグレー違いだが?」

越後屋「質問を質問で返しない。「そこそこ」頭のええ小鳥遊さんならもう答えはでてはるんやろ?」

そこそこというのが微妙に引っかかるが、越後屋の言い分を否定するのは過去のおれ達を否定することだ……同じ状況になったときの逃げ道はやはり欲しい。

悠「……巻きあげた金は、ちゃんとお上に収めるんだな?横領を認めるわけにはいかない。あくまで巻きあげるだけで、逢岡さんに渡すんだ。罰金代わりにな」

この辺りが、おれの判断の限界だった。