ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

悠「ありがとうございましたー」

本日二組目のお客さんが帰ると、小鳥遊堂はほぼ無人になった。

吉音「もうちょっとお客さん増やさないと、大変じゃな~い?」

内容に反して、口調は驚くほど緊張感がなかった。心配するならちゃんとして欲しい。

悠「新がもう少し食べるのを控えてくれたら、経営も楽になるんだけどな」

吉音「たくさん売れたら、ちょっと食べるくらい気にならなくなるよ」

うっ、吉音のくせに生意気なことを……!

悠「……まあ確かに、こんなありさまだと色々不安ではある。目安箱とかやってる場合じゃないんだよなぁ……」

吉音「目安箱は大事なことだよ!」

悠「誰かを助けることは大事なことだが、おれも助けて欲しいんだよ……」

吉音「悠は、弱くないから大丈夫だよ」

一応、褒めてもらってるんだろうか。だとしたら、その気持ちは嬉しいが。

悠「ま、なんとかして客足を伸ばす方法を考えるか……」

越後屋「少しお邪魔しますぇ」

鷹屋「し、失礼します」

悠「あ……?越後屋ぁ?何の用だよ」

越後屋「まぁつれない言い方。ウチはもう心を入れ替えて普通の商人してるのに」

悠「……まぁ、とりあえずはそれでいいけど。で、何の用なんだ?」

越後屋「そんなん見ればわかるやないの。ウチひとりで居るように見えるのん?」

鷹屋「初めまして。自分は、鷹屋といいます」

悠「はぁ……こちらこそはじめまして。小鳥遊悠です」

越後屋「さて、お互い自己紹介も済ませたところで……小鳥遊さん、少しお時間いただけますか?」

悠「……一応ウチは今経営中なんだが」

越後屋「お客さんがいらっしゃるようには、見えへんけど」

悠「いつ来るか分からないだろ」

越後屋「ほなら……」

懐から紙を取り出し、さらさらとなにやらしたため始める。立ったまま、すらすら書けるのも商人の必須スキルなんだろうか……と、どうでも良いことを考えていたら。

悠「……」

越後屋「これを」

たった今書かれたそれを、目のまえに突きだされる。そこには、『越後屋山吹の話を聞きなさい』という綺麗な文字が躍っていた。

悠「これをどうしろと?」

越後屋「目安箱とやらに入れれば、その通りにしてくれるんやろ?」

目安箱は、そういうものじゃないんだけどな……。

吉音「これは、話を聞くしかないね!」

しかし吉音は、ノリノリで話を聞きたがっていた。はぁ……仕方ない。

悠「分かったよ。話「だけ」は聞く。で、どしたんですか?」

越後屋「まずは説明といきまひょ。鷹屋さん、よろしゅうに」

鷹屋「は、はい。ええと、それでですね……」



~説明中~


悠「キングクリムゾン!」

鷹屋「は?」

悠「いやいやなんでもない。事情は分かった大変だな」

賄賂を寄越さないと仕事を回さないなんて、悪しき習慣にもほどがある。このひとも賄賂を送ってる訳だから、法の目だけで見れば同罪かもしれないが……。しかし、一介の業界全部を敵に回せるわけなんてない。むしろこの手を染めざる得ないシステムが、口封じの役目も担ってる訳で、実に良くできた……もといイヤらしい仕組みだ。
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