ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー大通りー

乙級女子B「やったあ!」

由佳里「やりましたねっ!さあて」

乙級女子B「あ」

にっこり笑った由佳里、女生徒がなにか言う暇もなく、どろのたまった側溝に手を突っ込んでしまう。

由佳里「ええと……あ、あった。あったあった、ありましたよ、お財布!これでしょ、仕送りが入ってる……」

乙級女子B「はい!はい……!ありがとうございます!」

由佳里「大事にするんだよ。おっかさんからの大事な仕送りだもの。ちょっと汚れちゃったけどね」

確かに手渡された財布は泥にまみれている。

乙級女子B「それをいうならあなたの手も……」

由佳里「え?ああそうだね!しょうがない、小鳥遊堂であらわせてもらうとしよう……って、ああ!いけないいけない。おつかいの途中だったんだっけ。じやあね!」

乙級女子B「あ……」

せめてお名前を、と言いかけた女生徒だったが由佳里はもう駆けだしていた。



ー新宿:小鳥遊堂ー

由佳里「うんしょ、こいしょ。うんしょ、こいしょ。うんしょ、こいしょ……やあ、ようやくたどり着いた。すいませーん」

店先に現れた由佳里は泥まみれだった。特に手が凄い。

悠「ちょ……、いったいどしたんだ……その恰好は」

由佳里「いやー……ははは……まぁちょっとありまして。においますか……?」

悠「トリアーエズもとい、とりあえず裏に回って洗ってきなよ。なんなら着替えも貸したげるから」

由佳里「ううーーごめんなさい……」

汚れを落として戻ってきた由佳里はいつもの八辺由佳里に戻っていた。

吉音「いったいどうしてあんなことに?どぶにでも落っこちたの?」

悠「そもそも用はなんだったんだ?ウチに用事だって……」

おれの問いに、由佳里がいきなり大声をあげた。

由佳里「あああっ!ついうっかり忘れてた!そうですよそうですよ、光姫さまのところにお客様が!だから、うんしょこいしょを3つ……!…………あれ?」

悠「はい、うんしょこいしょ3つはいりまーす。…………あー?なんだ?そのうんしょこいしょってのは……」

由佳里「光姫さまにいわれたんですよ、お客様が来るから小鳥遊堂で買っておいでって……だからわたし……くる途中、忘れないようにずっと口に出していたのに……ううう」

悠「それがどうしてえんしょこいしょなるものに変貌を遂げたんだ。SAN値でも下げられて……ああ、こら、泣くなっ」

由佳里「うっ、ぅっ、うっ。思い出せないよう……っ」

悠「泣かないでいいから……。ウチにおつかいってのが間違いないなら、ウチで売ってるものだろう?」

由佳里「そ、それはそうですよねっ」

悠「だったら、ウチの商品をひとつずつ見ていけば思い出すんじゃないかな」

吉音「おお、さすがは悠。智恵が回るね。」

由佳里「ではさっそく!ええと……」

と店先の陳列棚を覗きこむ由佳里。

吉音「これは?利休まんじゅう?」

棚からまんじゅうの載った皿を取って見せる吉音。

由佳里「うーん。なんか違う気がします」

考え込んだ由佳里は結局首を振る。
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