ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー田ノ上の屋敷(庭)ー

呆然としていた、田ノ上が急に叫んだ。

「き、貴様は誰だ!他の奴らはいったい何を…」

「うるさいなぁ。今悠たんと話してるのに…邪魔。」

一瞬、王の左手が消えた。どうしてそれに反応したかは解らないが、おれは田ノ上の前に出て王の左拳を両手で受け止めた。
握りこぶし大の石でも投げつけられたのかと思うほどの痛みがおれの両腕に突き刺さる。

「ありゃ?なにしてるの?」

「っ…アンタ今、殺す気だっただろ。コイツだけじゃない、さっきの奴も人中を潰してた…本気かよ」

王は無邪気な子供のように首を傾げた。
なにをいってるのか解らない様子だ。

「だって邪魔だったし。それに俺、自分でやらないと気が済まない子だもん。」
ゾッとした。一見陽気で茶目っけの強い優男に見えるが不気味な風を纏っているこのままだとここで本当に死人が出る。
おれは叫んだ。

「ぐっ…新!!その二人をにがすなよ!おれはコイツをどうにかする!」

「わかったよ!」

田ノ上と但馬屋はじわりと下がっていたが、新が二人と距離を縮めていき、あれよこれといううちに気がつけば庭へと追われている。
剣徒の意地か、引きながらも田ノ上は刀を抜く。
さっきまでのチンピラたちと違って木刀じゃない。

「こ、こう見えても俺、俺は柳宮新陰流の…」

「ふふふ、奇遇だね、あたしも柳宮新陰流」

目にも止まらぬとはこのことか、まばたきひとつの間に勝負はついていた。
くぐもったうめき声を立てて田ノ上は砂利の上に身を横たえた。

「遅いよ~。キミ、ホントに新陰流なの?」

「ひ、ひいいい~!」

目の前で田ノ上を斬られた但馬屋は腰を抜かして手足をじたばたさせていた。

「キミ、次の勝負は……無理か」

圧倒的な強さを見せつけられた上、剣徒でもない但馬屋に尋常な勝負を求めるのは酷というものだろう。

新は剣をひと払いして剣を鞘に納めた。

「ふぅ。あとはお奉行様にお仕置きしてもらうんだね。」

「う、う、いやぁぁ!!」

但馬屋は懐に手を入れると、懐刀を取り出し、突然新へと斬りかかった。
刀はさっき鞘に収めている。今の新は丸腰だ。

「よっ!」

「げっ…」

不意打ちも武器のあるなしも、但馬屋と新ね間においてはハンデにならなかった。軽く身を回転させて突進をやり過ごすと新は但馬の手首を叩いて懐刀を打ちおとした。

「マゴベエ!成敗!」

「ピュイ!」

新の号令でマゴベエの翼の下から飛び出した一対の苦無が、交差するように但馬屋を撃つ。そしてブーメランのようにマゴベエの元へと戻り、再び翼の下へと収まった。

「ぐ…ふっ…」

再びその場に崩れ落ちる但馬屋。

「やれやれだね」

ちょうどその時、屋敷の外から呼子の音が響いた。

「想ちゃん達だ。あ、悠は!?」
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