ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】
ー大通りー
由佳里「さあて、そろそろ小鳥遊堂ですよ。白百合3輪、白百合3輪、白百合3輪……ん?」
ふと足を止めた由佳里は、怪訝な顔で道端を見る。そこには悲しそうな顔でへたりこむ女生徒。
乙級女子B「……」
由佳里「どうしたんです?そんなところに座っちゃ制服が汚れちゃいますよ」
乙級女子B「構わないでください。制服くらい汚れたって……うう」
涙をぬぐうその手も、なにやら黒く汚れている。
由佳里「これはどうやら事情がありそうですね……よかったらわたしに話してみませんか?」
乙級女子B「……あなたは?」
由佳里「なあに、通りすがりのお節介やきですよ……って光姫さまならいうと思います」
乙級女子B「は、はあ……?」
女生徒は要領を得ない顔だったが、由佳里に事情を話してくれた。
乙級だというその生徒は、ここで懐から出そうとした財布を落としてしまったのだという。
乙級女子B「あたしおっちょこちょいで……いつも、ついうっかりモノを落としたり無くしたりしちゃうんです……」
うっかり、などと聞くといよいよ人ごととは思えない由佳里。
由佳里「それで財布はどこに?」
乙級女子B「……」
女生徒は道の端の側溝を指さした。雨水やらの排水を流す側溝はコンクリ製の蓋がされている。どうやら財布は運悪くそのふたに空いたスリット状の穴に落ちてしまったらしい。
由佳里「この中に!……ふうむ、じゃあこれを持ち上げればお財布は……」
乙級女子B「やってみたんですけど、とても重くて持ちあがらなくて……」
確かに男子ならともかく、小柄な乙級女子にはこのコンクリ製のふたは荷が勝ちそうだ。
由佳里「だったらふたりでやろう。それなら……さあ、手を貸して」
乙級女子B「はっ、はい!」
由佳里にいわれて女生徒は再びふたに手をかけた。
乙級女子B「で、でもあなたの手も汚れてしまいます。」
由佳里「あなただって、そんなに汚れても頑張っているじゃないですか。さあ、そんなこと気にせず……よいしょっ」
乙級女子B「よいしょっ」
由佳里「こいしょ、よいしょっ!」
乙級女子B「よいしょっ、よいしょっ」
ふたりで力を込めるものの、いかんせん息が合っていない。ふたりがそれぞれに力を込めていては、それはひとりずつ持ち上げようとしているのと同じ。
由佳里「はぁっ、はぁ……っ」
乙級女子B「やっぱりだめですね……うう、お母さんの仕送り……」
再び泣き出しそうになる女生徒。
由佳里「あきらめちゃだめです!」
乙級女子B「っ?!」
由佳里「さあ、もういちどやってみましょう。今度はもっと力を合わせて!」
乙級女子B「…………はい」
さすがに3度目の挑戦、女生徒はあまり気乗りがしない様子。しかし、由佳里の方はやる気満々。
由佳里「さあっ、いっしょに声を出していきましょう!」
乙級女子B「声?どんなふうに……」
由佳里「え。……そうですねえ、リズムが良い言葉がいいですよね、きっと……うんしょ、こいしょ。なんてどうですか?」
乙級女子B「はあ……わかりました」
由佳里「じゃあいきますよぉ。そっちを持って……うんしょ、こいしょ!」
乙級女子B「うんしょ、こいしょ」
由佳里「もっと大きな声で!うんしょ、こいしょ!」
乙級女子B「うんしょ、こいしょ!」
少女ふたりの非力でも、力を合わせるとそれなりになるようで、重いふたもじりじりと動き始める。
由佳里「さあて、そろそろ小鳥遊堂ですよ。白百合3輪、白百合3輪、白百合3輪……ん?」
ふと足を止めた由佳里は、怪訝な顔で道端を見る。そこには悲しそうな顔でへたりこむ女生徒。
乙級女子B「……」
由佳里「どうしたんです?そんなところに座っちゃ制服が汚れちゃいますよ」
乙級女子B「構わないでください。制服くらい汚れたって……うう」
涙をぬぐうその手も、なにやら黒く汚れている。
由佳里「これはどうやら事情がありそうですね……よかったらわたしに話してみませんか?」
乙級女子B「……あなたは?」
由佳里「なあに、通りすがりのお節介やきですよ……って光姫さまならいうと思います」
乙級女子B「は、はあ……?」
女生徒は要領を得ない顔だったが、由佳里に事情を話してくれた。
乙級だというその生徒は、ここで懐から出そうとした財布を落としてしまったのだという。
乙級女子B「あたしおっちょこちょいで……いつも、ついうっかりモノを落としたり無くしたりしちゃうんです……」
うっかり、などと聞くといよいよ人ごととは思えない由佳里。
由佳里「それで財布はどこに?」
乙級女子B「……」
女生徒は道の端の側溝を指さした。雨水やらの排水を流す側溝はコンクリ製の蓋がされている。どうやら財布は運悪くそのふたに空いたスリット状の穴に落ちてしまったらしい。
由佳里「この中に!……ふうむ、じゃあこれを持ち上げればお財布は……」
乙級女子B「やってみたんですけど、とても重くて持ちあがらなくて……」
確かに男子ならともかく、小柄な乙級女子にはこのコンクリ製のふたは荷が勝ちそうだ。
由佳里「だったらふたりでやろう。それなら……さあ、手を貸して」
乙級女子B「はっ、はい!」
由佳里にいわれて女生徒は再びふたに手をかけた。
乙級女子B「で、でもあなたの手も汚れてしまいます。」
由佳里「あなただって、そんなに汚れても頑張っているじゃないですか。さあ、そんなこと気にせず……よいしょっ」
乙級女子B「よいしょっ」
由佳里「こいしょ、よいしょっ!」
乙級女子B「よいしょっ、よいしょっ」
ふたりで力を込めるものの、いかんせん息が合っていない。ふたりがそれぞれに力を込めていては、それはひとりずつ持ち上げようとしているのと同じ。
由佳里「はぁっ、はぁ……っ」
乙級女子B「やっぱりだめですね……うう、お母さんの仕送り……」
再び泣き出しそうになる女生徒。
由佳里「あきらめちゃだめです!」
乙級女子B「っ?!」
由佳里「さあ、もういちどやってみましょう。今度はもっと力を合わせて!」
乙級女子B「…………はい」
さすがに3度目の挑戦、女生徒はあまり気乗りがしない様子。しかし、由佳里の方はやる気満々。
由佳里「さあっ、いっしょに声を出していきましょう!」
乙級女子B「声?どんなふうに……」
由佳里「え。……そうですねえ、リズムが良い言葉がいいですよね、きっと……うんしょ、こいしょ。なんてどうですか?」
乙級女子B「はあ……わかりました」
由佳里「じゃあいきますよぉ。そっちを持って……うんしょ、こいしょ!」
乙級女子B「うんしょ、こいしょ」
由佳里「もっと大きな声で!うんしょ、こいしょ!」
乙級女子B「うんしょ、こいしょ!」
少女ふたりの非力でも、力を合わせるとそれなりになるようで、重いふたもじりじりと動き始める。