ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー大通りー

由佳里「和菓子とも洋菓子とも違う、未体験の味になるんです~っ!」

桃子「そ、それは食いてえええええっ!」

由佳里「でしょでしょ~っ?」

桃子「うーむ、いまはちょっと急ぎの用事があるが、帰りにはぜひ寄っていかねばならんな、小鳥遊堂。いいことを聞かせてもらった、さすがは八辺由佳里。さすがだなっ」

由佳里「あ、ありがとうございますっ!」

最敬礼の由佳里。普段は頼りない、うっかりだとばかり言われる彼女。こんな風に褒められるのはうれしくてならない。

桃子「じゃあな」

由佳里「えへへ~。わたし役に立っちゃったぁ。……おっと、おつかいおつかい。うっかりするところだった!羊羹3つ、羊羹3つ、羊羹3……」

思い出した由佳里は、再び小鳥遊堂への道を歩き出すのだが……あれあれあれ。本人は気づいていないようだが、すっかりおつかいの中身が入れ替わっている。

真留「やあ、由佳里じゃないですか」

由佳里「あ、真留さん。こんにちは」

由佳里に声をかけたのは、腰に十手を差し込んだ小柄な少女。学園の治安を守る町方の、その手足となって働く岡っ引きのひとりだ。十手はそのしるしである。

真留「こんにちは。なんだかぶつぶつつぶやいてたみたいですけど、念仏かなにかですか?」

由佳里「ああいえ、これは光姫さまのおつかいで。こうやって口に出しながらいえば忘れずに済むでしょ」

真留「なある。私はまた新しい踊り念仏でも流行り出したのかと思って……」

由佳里「やだなあ。あっはっはっは」

真留「あはははは。で、なにを買いに行くんですか?」

由佳里「そりゃもちろん、羊羹です!……あれ?羊羹で良かったのかな……光姫さまのところにお客様がいらっしゃるんですよ」

真留「なるほど、お客様のおもてなしにはちょうどよさそうですねえ」

由佳里「真留さんもなにか用事ですか?」

真留「ええ、奉行所が殺風景だから、花のひとつも飾ろうと思いまして。白百合なんかどうかなあ、と」

由佳里「白百合!いいですねえ。綺麗ですよねぇ」

真留「やっぱり綺麗なものが飾ってあると、心がなごみますからね。堅苦しい仕事場ですから、せめても奉行所にくるひとに和んでもらおうと」

由佳里「うんうん。そういう細かな気遣いが、仕事を円滑にすすめるもとですよね。わたしも見習わなきゃ。白百合の花言葉、知ってます?白百合の花言葉は、威厳、純潔。お奉行所にはぴったりですね!」

真留「なるほど、そこまでは気づかなかった……ああ、お使いの最中、長話をして引きとめてはいけませんね」

由佳里「いえいえ、こちらこそ。それじゃ!」

真留「はい、失敬します」

由佳里は手を振って真留と別れる。そしてまたおつかいの内容をくりかえしだす。

由佳里「白百合3つ、白百合3つ、白百合3つ……あ、百合は輪か。白百合3輪、白百合3輪……」

彼女のあとをずっとついていっている者がいれば、「気をつけるところはそこじゃない!」と突っ込むはず。
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