ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】
ー新宿:小鳥遊堂ー
信乃「発端は、友達数人で始めた共同生活の、初めて迎えた夕食の時間だったそうです。みんな引越しの疲れと、これから始まる生活への期待、それに不安とで緊張していました。だから、新生活を機に気弱な自分を変えたいと思っていた忍さんは、その日の食事当番を買って出たのでした」
平和「それからのことは、近所の噂と忍さんの告白通り。最初の頃はまだ、みんなも手伝っていたそうだけど、最近では忍さんひとりに任せ切っていたようでござる。勉強、部活、遊び、そのほか……拙者たちにはやるべきこと、やりたいことが山ほどあるでござるよ。」
つばめ「でも、それは忍さんも一緒です。家事を交代制にしてほしい――そういいだせない自分を恨みながらも、忍さんはストレスを溜めていきました。そしてある日、玄関の掃除をしていた最中、ついつい靴を一足、蹴り飛ばしてしまいました」
平和「そこに運悪く、その靴の持ち主がやって来て、私の靴が片方ないけど知らないか、と聞いてくる。忍さんは咄嗟に、たったいま猫が咥えていったわ、と答えたのでござるよ。そして、一緒に探してあげるふりをして、靴が飛んでいった茂みに近づき……おもむろに、ニャーとひと声、かくして、悪戯好きな化け猫誕生と相成ったわけでござる」
信乃「それからのことは、化け猫の噂が語るところです。しいていい添えるなら、夜な夜な聞こえていた鳴き声の正体は、猫の着声を加工したものだったそうです」
つばめ「何はともあれ、事件は解決しました。あれから和解した菜直さんと忍さんの二人は、今でもあのお屋敷で暮らしています。あれ以来、化け猫の噂も聞いていません」
信乃「……ですが、眠った化け猫がまた目を覚まさないことも限らないです」
平和「世に、事件のタネが尽きることはないのでござる。」
吉音「大丈夫だよ、菜直さんと忍さんなら。だって、ふたりは友達同士だもん」
信乃「そう……ですね、きっと」
つばめ「ええ、わたくしもそう信じます」
平和「人はときとして大切なことを忘れ、悲しくすれ違ってしまうものでござる。けれども、かならず分かり合うことができるものでも、またあるのでござる。そう、今回の事件のように――というような感じで、拙者たち探偵団の大活躍によって化け猫の正体は見事暴かれたのでござるよ!」
輝「へぇー、そりゃ本当に大活躍だったじゃないですかい。おいらも情報提供した甲斐があったってぇもんだ」
平和「でしょでしょ、すごいでしょ!これでもう、今度の瓦版の一面は決まりだね!」
信乃「えっへへ……これで私たちも、明日から有名人の仲間入りだぜっ!」
つばめ「うふふふ~、名前が売れるのは良いことです~」
平和たち三人は、顔をゆるゆるに緩ませて夢見心地に浸っている。そんな三人の幸せに水をさすのは、少々心苦しいのだけれど……しかたないよな、すまん。
悠「ん……あー、ところでさぁ」
平和「なんでござるか?」
悠「今、ふっときになったんだが……事件解決に一番貢献したのって誰だったかなぁ?」
平和「え、それはまぁ……」
信乃「みんな貢献したと思うけどぉ……」
つばめ「でも、一番はやっぱり、」
「拙者でござる」「私だぜ」「わたくしですね」
「「「え……」」」
三人同時にいってから、三人同時に息をのむ。そして今度は口々に主張を始める。
平和「野良猫が居ないと判断できたのは、拙者が比良賀さんに聞き込みをしたからでござる」
信乃「実際に屋敷の敷地を調べて、飼い猫だっていやしないことを推理したのは、この私です」
つばめ「それをいいましたら、忍さんが家事を押し付けられたことを聞きこんできたのは、わたくしですよ」
「「それはつばめじゃなくて、悠さん!!」」
つばめ「あら……そうでしたっけ?」
「「そうでした!」」
つばめ「あらあら……いやぁね、わたくしったら」
……三人は、ああでもないこうでもないと姦しくしている。ひとりで捜査を進めようなんておかしいと思った。みんな一番手柄を狙ってたんだな。その騒がしい光景を横目に見ながら、おれは輝を手招きで呼び寄せた。
輝「はいはい、なんでしょ?」
悠「今回の化け猫騒ぎのことなんだけどな……」
輝「記事にはしないでくれっていうんでしょ、分かってますがな」
悠「あー?」
いうつもりだったことをぴたりと当てられて驚くおれに、輝はニンマリと笑う。
輝「化け猫の正体が自作自演だったなんて知れ渡ったら、あの二人は暮らしづらいだろうから記事にしないでくれ……って、新ちゃんからもいわれたばっかりなんでね」
悠「新が?」
いわれて吉音を探すと、わざとらしく横を向いて口笛を吹く真似をしていたりする。
輝「まっ、二人から頼まれたんじゃ、嫌とはいえないねぃ。白玉クリームあんみつ手を打とうじゃないか」
悠「はぁ……分かったよ。今お持ちします、お客様」
輝「話しが速くて嬉しいや……あっねでも、あっちの三人に説明するのまでは面倒見ないからねー」
悠「うっ……」
おれはおそるおそる、平和たちのほうに目を戻してみる。三人の論争はいつの間にやら、誰が一面写真の真ん中になるか、に移っていた。この三人を納得させるのが、この事件で一番の大仕事になりそうだった……はぁ、やれやれだぜ。
信乃「発端は、友達数人で始めた共同生活の、初めて迎えた夕食の時間だったそうです。みんな引越しの疲れと、これから始まる生活への期待、それに不安とで緊張していました。だから、新生活を機に気弱な自分を変えたいと思っていた忍さんは、その日の食事当番を買って出たのでした」
平和「それからのことは、近所の噂と忍さんの告白通り。最初の頃はまだ、みんなも手伝っていたそうだけど、最近では忍さんひとりに任せ切っていたようでござる。勉強、部活、遊び、そのほか……拙者たちにはやるべきこと、やりたいことが山ほどあるでござるよ。」
つばめ「でも、それは忍さんも一緒です。家事を交代制にしてほしい――そういいだせない自分を恨みながらも、忍さんはストレスを溜めていきました。そしてある日、玄関の掃除をしていた最中、ついつい靴を一足、蹴り飛ばしてしまいました」
平和「そこに運悪く、その靴の持ち主がやって来て、私の靴が片方ないけど知らないか、と聞いてくる。忍さんは咄嗟に、たったいま猫が咥えていったわ、と答えたのでござるよ。そして、一緒に探してあげるふりをして、靴が飛んでいった茂みに近づき……おもむろに、ニャーとひと声、かくして、悪戯好きな化け猫誕生と相成ったわけでござる」
信乃「それからのことは、化け猫の噂が語るところです。しいていい添えるなら、夜な夜な聞こえていた鳴き声の正体は、猫の着声を加工したものだったそうです」
つばめ「何はともあれ、事件は解決しました。あれから和解した菜直さんと忍さんの二人は、今でもあのお屋敷で暮らしています。あれ以来、化け猫の噂も聞いていません」
信乃「……ですが、眠った化け猫がまた目を覚まさないことも限らないです」
平和「世に、事件のタネが尽きることはないのでござる。」
吉音「大丈夫だよ、菜直さんと忍さんなら。だって、ふたりは友達同士だもん」
信乃「そう……ですね、きっと」
つばめ「ええ、わたくしもそう信じます」
平和「人はときとして大切なことを忘れ、悲しくすれ違ってしまうものでござる。けれども、かならず分かり合うことができるものでも、またあるのでござる。そう、今回の事件のように――というような感じで、拙者たち探偵団の大活躍によって化け猫の正体は見事暴かれたのでござるよ!」
輝「へぇー、そりゃ本当に大活躍だったじゃないですかい。おいらも情報提供した甲斐があったってぇもんだ」
平和「でしょでしょ、すごいでしょ!これでもう、今度の瓦版の一面は決まりだね!」
信乃「えっへへ……これで私たちも、明日から有名人の仲間入りだぜっ!」
つばめ「うふふふ~、名前が売れるのは良いことです~」
平和たち三人は、顔をゆるゆるに緩ませて夢見心地に浸っている。そんな三人の幸せに水をさすのは、少々心苦しいのだけれど……しかたないよな、すまん。
悠「ん……あー、ところでさぁ」
平和「なんでござるか?」
悠「今、ふっときになったんだが……事件解決に一番貢献したのって誰だったかなぁ?」
平和「え、それはまぁ……」
信乃「みんな貢献したと思うけどぉ……」
つばめ「でも、一番はやっぱり、」
「拙者でござる」「私だぜ」「わたくしですね」
「「「え……」」」
三人同時にいってから、三人同時に息をのむ。そして今度は口々に主張を始める。
平和「野良猫が居ないと判断できたのは、拙者が比良賀さんに聞き込みをしたからでござる」
信乃「実際に屋敷の敷地を調べて、飼い猫だっていやしないことを推理したのは、この私です」
つばめ「それをいいましたら、忍さんが家事を押し付けられたことを聞きこんできたのは、わたくしですよ」
「「それはつばめじゃなくて、悠さん!!」」
つばめ「あら……そうでしたっけ?」
「「そうでした!」」
つばめ「あらあら……いやぁね、わたくしったら」
……三人は、ああでもないこうでもないと姦しくしている。ひとりで捜査を進めようなんておかしいと思った。みんな一番手柄を狙ってたんだな。その騒がしい光景を横目に見ながら、おれは輝を手招きで呼び寄せた。
輝「はいはい、なんでしょ?」
悠「今回の化け猫騒ぎのことなんだけどな……」
輝「記事にはしないでくれっていうんでしょ、分かってますがな」
悠「あー?」
いうつもりだったことをぴたりと当てられて驚くおれに、輝はニンマリと笑う。
輝「化け猫の正体が自作自演だったなんて知れ渡ったら、あの二人は暮らしづらいだろうから記事にしないでくれ……って、新ちゃんからもいわれたばっかりなんでね」
悠「新が?」
いわれて吉音を探すと、わざとらしく横を向いて口笛を吹く真似をしていたりする。
輝「まっ、二人から頼まれたんじゃ、嫌とはいえないねぃ。白玉クリームあんみつ手を打とうじゃないか」
悠「はぁ……分かったよ。今お持ちします、お客様」
輝「話しが速くて嬉しいや……あっねでも、あっちの三人に説明するのまでは面倒見ないからねー」
悠「うっ……」
おれはおそるおそる、平和たちのほうに目を戻してみる。三人の論争はいつの間にやら、誰が一面写真の真ん中になるか、に移っていた。この三人を納得させるのが、この事件で一番の大仕事になりそうだった……はぁ、やれやれだぜ。