ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー田ノ上の屋敷(庭)ー

新は腰に手を当てると、あきれた顔で残りのチンピラたちを見回す。

「あたしの顔、見忘れちゃったの?」

貞三が叫んだ。

「げっ…お前はあのときの用心棒!?」

「あったりー♪」

「えー、今まで気がついてなかったのか…」

いくらうすぐらいといえ、やられた相手の顔くらい覚えてるだろ普通。

チンピラのひとりがいった。

「た、但馬屋さん、こいつが例の用心棒です」

「……お前、用心棒は熊みたいな女だっていってなかったかい?」

「いや、まぁその……こっちにも自尊心ってものがありやして」

「誰が熊みたいな女だぁー!」

何だ、この気の抜ける感じは…。こんなのならおれもボケたいのに…。

田ノ上がおれを跨ぎながらいった。
もはやおれは物扱いらしい。

「ふふふ、但馬屋考えよ。これは好機。屋敷にまでのこのこやってきおって。まさに飛んで火にいる夏の虫よ」

「なるほど……確かに。貞三!」

「わかっておりやす!野郎ども、こんどこそ無事に返すんじゃねぇぞ!」

おぉ!っと気合いの入るごろつきに新はため息をついた。
ちなみにおれは縄脱けが終わった。

「懲りないなぁ。せっかくあたしだよって教えてあげたのに。」

新はゆっくりと鞘から刀を抜くと右手を鍔もと、左手を石打に持つ。いわゆる八双の構えをとった。
口調の緩さに反して、その構えは泰然として隙がない。

その迫力だけでこの新が相当の使い手であることはこの場の誰もがわかったはずだ。

「但馬屋さんに田ノ上さん。二人の悪巧みはさっき全部聞いちゃったよ。あのお店は悠のものだよ。なのに何度も悪さして困らせるなをて店の用心棒として捨て置けないよ。それに何より何よりっ!悠を!さらって!縛って!いじめるなんて!大事な雇い主へのこの無体!徳田新、断じて許すわけにはいきませんっ!」

「笑止。浪人風情が役人に説教とは片腹痛いわ。」

「その通り。この学園は力こそ正義。その大口、剣で塞いでやりなさい!」

「はぁ…反省はゼロってことだね。しょうがないもう一度やっつけちゃうか。」

新はきりりと表情を引き締めるとチャリンと刃を返した。

「さぁ、いっくぞー!」

「かかれ、かかれ」

「いくら強いといってもたかが女一人。一斉に斬りかかれば倒せぬ物ではないぞ!」

「うぉらぁ!」

「胴ががら空きだよ!」

上段から斬りかかってきたチンピラの縦の一撃に直角に胴を打ち込む。

速い、これで三人。
田ノ上と但馬を会わせて残り五人だ。
おれは置物なのでおとなくししている。

「馬鹿者一体一では敵わん、一斉にかかれ!」

チンピラ二人は応えたものの前の二人のやられっぷりを見て明らかに腰が引けているのがわかった。

「さぁ、どこからでも打ってきなさい!」

顔を見合わすチンピラ二人。しり込みするチンピラに貞三が檄を飛ばした。

「てめえら、とっとと斬りかからねぇか!」

こいつはいかないわけだが…。
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