ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

悠「あれ……今日はひとりなんだな」

つばめ「ええ。今日は三人とも別行動何です」

放課後になり、おれがいつものように店を開けていると、いつもは違って、つばめがひとりきりでやつてきた。ちなみに、いつもいる吉音は、そこで丸くなって幸せそうな顔で昼寝している。

悠「にしても珍しいな、おまえたちが別行動なんて」

つばめ「あら、そうです?でも、たまには、そういうこともありますわ」

悠「まっ、それもそうか」

つばめ「ええ、そうですわ」

悠「そ、そうか……」

つばめ「うふふふ」

つばめは、にこにこ微笑みながらおれの手元を見つめている。

悠「あの、さ……いつまで、ここにいるつもりなんだ?」

つばめ「それはもちろん、悠さんがその目安箱を開けるまで、ですわ~」

つばめが微笑み顔で見つめているのは、おれがちょうど中身を開けようとしていた目安箱だ。

悠「あんまり、他の人には見せたくないんだけど……」

つばめ「あら、心配いりませんわ。秘密厳守は探偵のたしなみですから~」

これ以上、おれが何をいっても暖簾に腕押しだろう。

悠「いや……それは良いんだけど……はぁ、まあいいか。じゃあ、見ててもいいけど、くれぐれも言いふらしたりしないでくれよ」

つばめ「分かってます。大船に乗ったつもりで、投書の仕分けをお任せくださいな」

悠「はは……それは嬉しい申し出だけど、どうやら仕分けは必要ないみたいだ。ほら」

おれは、表蓋を開けた目安箱をもち上げて振ってみせる。その中から落ちて来たのは、紙切れ一枚だった。

つばめ「あらぁ……悠さんのところの目安箱なら、事件が盛りだくさんだと思ってたんですけどね~……」

悠「それは期待に添えなくて済まなかったな」

つばめ「いいえ~。一枚でも投書があったんですから、十分に収穫ありです」

悠「あ、そうだな。一枚でも投書が入ってたんだよな……どれどれ……」

おれはひらりと舞い落ちた投書を拾いあげて、その内容に目を通した。

悠「……あー?」

つばめ「どうしたんですか?なんて書いてあったんです?」

悠「野良猫を退治してください」

実際にはもう少し詳しく、猫が夜中に大声で鳴いたり、ご飯を食い散らかしたりする――とか描いてあった。靴を片方持って行かれるけど、そのうちひょっこり戻ってくる、とも書いてあるが……これは意味不明だ。まあとにかく要約すれば、野良猫を捕まえて欲しいと、ということだった。

つばめ「それって……」

悠「悪いね、やっぱり期待に添えなく――」

つばめ「それって、事件ですっ!!」

悠「へ……あ、あぁ……便利屋扱いされてる気がしなくもないけど、事件といえば事件だな、うん」

つばめ「そうです、事件です!さあっ、早く参りましょう!」

そういって立ちあがるなり、つばめはおれの袖を掴んで引っ張る。

悠「参るって、何処にだよ?」

つばめ「決まってます。その投書の差出人のご自宅ですっ」

悠「……そうだな。とにかく、あって話を聞いてみるか」

つばめ「はいっ、そして見事に事件解決いたしましょう~っ」

悠「それは気が早いと思うんだが……それじゃあ、新。おれ、ちょっと出てくるから留守をよろしく」

吉音「ん……んぁー……」

うたた寝している吉音にひと声かけると、おれは袖をつばめに引っ張られるようにして店を出たのだった。
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