ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】
ー新宿:小鳥遊堂ー
由真「私をどうしたいわけ?」
不良生徒A「そうだな……まずは、頭をさげてさっきのことを詫びてもらおうか。なぁに。ちゃんと誠意さえ見せてくれれば、あとは優しく可愛がってやるよ」
由真「……下衆が」
由真は吐き捨てるように呟き、男を射貫かんばかりに強く睨みつけている。だが、いつものように蹴りが繰り出されることはない。そもそも由真が動けるならおれがとっくにやつの顔を叩き潰している。それを察してか唯ちゃんがちいさく漏らす。
唯「ごめん、由真姉……」
由真「…………」
唯ちゃんの声には答えず、由真は悔しそうに唇を噛んでいた。そんな由真の様子に、男は自分が優位に立ったことを確信してにやにや笑っている。誰か手を貸してくれないかと周りに目をやるが、野次馬たちは一斉に顔を逸らして散り始めた。万事休すかと諦めてしまいそうになった時だった。
「あなたが……子住由真さん?」
由真「……え?」
場違いなほど落ち着いた声が、どこからともなく聞こえて来た。誰もが、おれたちを取り囲んでいた男たちすらが意表を突かれて戸惑っていると、暗がりから人影が現れる。
悠「あんたは……」
声の主は、昼間もあった笠が印象的な女の子、文だった。彼女は周りを取り囲んだ男たちなんて目もくれず、由真のまえまで無表情でやってきた。
文「子住由真さん?」
由真「そうだけど……」
文「…………」
あっけに取られている由真を、彼女は無遠慮に眺めまわしている。そうこうしていると、周りの男たちが我に返り、気の逸ったひとりが彼女に近づいていった。
不良生徒B「なんだてめぇは!」
文「邪魔です」
不良生徒B「うがっ!?」
彼女は由真に顔を向けたまま、肩に伸びて来た男の手を躱すと同時に、その鳩尾に肘を叩きこんでいた。うめき声を漏らして倒れ込んだ男を見て、周りが色めき立つが、彼女は気にした様子もない。だが、さんざん由真を眺めた後、わずかに落胆したみたいに肩を落とす。
文「確かに腕は立つようだけど、得意なのは荒事じゃなさそうですね。それじゃ、御免なさい」
悠「あ……おい!待ってくれ!」
何事もなかったかのように立ち去ろうとした彼女は、おれのあわてた声に気づき、仕方なさそうに足をとめた。
文「なんですか?」
悠「なんですかって……この状況見て、なにも思わないのか?助けてくれてもいいだろ!」
彼女は視線をめぐらせ、周りを取り囲んでいる男たちを見た。そのあとで、静かな眼差しをおれに戻して呟く。
文「私には……関係ないことです」
悠「関係ないって……」
最初の時もこんなやりとりだった。やっぱり文は、他人と変わるのを嫌っているのか……?
不良生徒C「ふざけんな!仲間をやられて、このまま帰すと思ってんのか!」
文「…………」
不良生徒C「ぐあっ!?」
彼女につかみかかっていった男が、まるで足をひっかけられたみたいに勢いよく地面に転がった。男が近づいてくるより先に、彼女の方から間合いを詰めて、足を刈るような蹴りを放ったからだ。その動きの鋭さを見て、男たちの間に動揺が走る。
由真「私をどうしたいわけ?」
不良生徒A「そうだな……まずは、頭をさげてさっきのことを詫びてもらおうか。なぁに。ちゃんと誠意さえ見せてくれれば、あとは優しく可愛がってやるよ」
由真「……下衆が」
由真は吐き捨てるように呟き、男を射貫かんばかりに強く睨みつけている。だが、いつものように蹴りが繰り出されることはない。そもそも由真が動けるならおれがとっくにやつの顔を叩き潰している。それを察してか唯ちゃんがちいさく漏らす。
唯「ごめん、由真姉……」
由真「…………」
唯ちゃんの声には答えず、由真は悔しそうに唇を噛んでいた。そんな由真の様子に、男は自分が優位に立ったことを確信してにやにや笑っている。誰か手を貸してくれないかと周りに目をやるが、野次馬たちは一斉に顔を逸らして散り始めた。万事休すかと諦めてしまいそうになった時だった。
「あなたが……子住由真さん?」
由真「……え?」
場違いなほど落ち着いた声が、どこからともなく聞こえて来た。誰もが、おれたちを取り囲んでいた男たちすらが意表を突かれて戸惑っていると、暗がりから人影が現れる。
悠「あんたは……」
声の主は、昼間もあった笠が印象的な女の子、文だった。彼女は周りを取り囲んだ男たちなんて目もくれず、由真のまえまで無表情でやってきた。
文「子住由真さん?」
由真「そうだけど……」
文「…………」
あっけに取られている由真を、彼女は無遠慮に眺めまわしている。そうこうしていると、周りの男たちが我に返り、気の逸ったひとりが彼女に近づいていった。
不良生徒B「なんだてめぇは!」
文「邪魔です」
不良生徒B「うがっ!?」
彼女は由真に顔を向けたまま、肩に伸びて来た男の手を躱すと同時に、その鳩尾に肘を叩きこんでいた。うめき声を漏らして倒れ込んだ男を見て、周りが色めき立つが、彼女は気にした様子もない。だが、さんざん由真を眺めた後、わずかに落胆したみたいに肩を落とす。
文「確かに腕は立つようだけど、得意なのは荒事じゃなさそうですね。それじゃ、御免なさい」
悠「あ……おい!待ってくれ!」
何事もなかったかのように立ち去ろうとした彼女は、おれのあわてた声に気づき、仕方なさそうに足をとめた。
文「なんですか?」
悠「なんですかって……この状況見て、なにも思わないのか?助けてくれてもいいだろ!」
彼女は視線をめぐらせ、周りを取り囲んでいる男たちを見た。そのあとで、静かな眼差しをおれに戻して呟く。
文「私には……関係ないことです」
悠「関係ないって……」
最初の時もこんなやりとりだった。やっぱり文は、他人と変わるのを嫌っているのか……?
不良生徒C「ふざけんな!仲間をやられて、このまま帰すと思ってんのか!」
文「…………」
不良生徒C「ぐあっ!?」
彼女につかみかかっていった男が、まるで足をひっかけられたみたいに勢いよく地面に転がった。男が近づいてくるより先に、彼女の方から間合いを詰めて、足を刈るような蹴りを放ったからだ。その動きの鋭さを見て、男たちの間に動揺が走る。