ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

「ずいぶん楽しそうにしてるじゃねぇか」

悠「あー?」

聞き覚えのない声だったから、最初それが、おれたちに向かってかけられたものだと気づかなかった。だがすぐに、人が近づいてくる気配を感じ、そちらに顔を向ける。すると、見るからに剣呑な雰囲気を漂わせた男たちの集団が、おれ達のすぐそばまでやってきた。その集団の中からひとりが進み出て来ると、由真が顔をしかめた。

由真「アンタはさっきの……」

不良生徒A「なんだ、覚えてくれてたのか」

由真「そりゃあね。あんなことしようとしたの、今日はアンタだけだったし」

悠「……あんなことって?」

と、小声で唯ちゃんに尋ねてみた。

唯「由真姉のお尻触ろうとしたんだよ」

悠「なるほど」

さっき店のなかで悲鳴をあげたのは、この男だったというわけか。

由真「で、なに?さっきのことを謝りに来たの?」

不良生徒A「謝るのはお前の方だろ。あんな大勢のまえで、よくも恥をかかせてくれたな」

由真「はぁ?そんなの自業自得でしょうが」

不良生徒A「うるせぇ!なんて言われようと、きっちり落とし前はつけさせてもらうぞ」

男がそういって合図を送ると、後ろの集団がおれたちを取り囲むように広がった。って、さすがに数が多すぎるだろ。十人以上いるぞ、これ。だが由真は顔色ひとつ変えず、あきれたように肩をすくめた。

由真「なにが落とし前よ。こんなにぞろぞろ仲間なんか連れて来ちゃって……みっともないったらありゃしない」

悠「おいおい。こんな状況で余計な挑発するなって」

由真「なに?怖気づいたなら店に引っ込んでたら?そもそもアンタには関係ないことなんだし」

悠「そういうわけにもいかんでしょーが。なあ、アンタ。こんなことして、なんになるっていうんだ?考えなおして引いちゃくれないか?」

おれは穏やかに話しかけながら、周りの様子を示すように顎をしゃくってみせる。すでに日が暮れているとはいえ、人通りがないわけではない。現に、足を止めてこちらの様子をうかがっている者もちらほらといるし。こんな状況なら、少しは躊躇ってくれるかと思ったのだが……。

不良生徒A「此処まで来て、今さら引けるかよ」

悠「そういわずにさ……」

不良生徒B「黙ってろよ、この腰抜けが!!」

悠「お……」

すぐ後ろから聞こえた声に驚き、振り返ろうとした瞬間、横っ面を殴りかかろうとした腕を掴んで地面に叩き伏せた。メキリリっと骨のきしむ音がする。

不良生徒B「ぎゃぁっ?!」

悠「動くなよ。冗談抜きでへし折るぞ」

更に圧を加えてやって悲鳴をあげさせた。ここまですれば、さすがにコイツらも散ると思ったが別の悲鳴が聞こえた。

唯「なんだよっ!?離せってばっ!」

由真「唯っ!!」

ハッとしてそちらを見ると、唯ちゃんが男に羽交い絞めにされていた。男は巨漢で、小柄な唯ちゃんがどれだけ暴れたところで、ビクともしない。

悠「てめっ…」

不良生徒A「おっと、動くなよ。どうなるか分かるだろ?さぁ、まずそいつを解放して動くな」

悠「……ちっ。躊躇なく折ってやればよかった」

おれは抑えつけてる頭から手を退けた。

不良生徒A「お前も妙な動きしてみろ、妹が大切ならな」

由真は静かに、身動きの取れないおれと唯ちゃんを交互に見る。そして、冷やかな眼差しを男に向けた。
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