ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

吉音「んじゃっ、まったね~っ」

悠「ああ。気をつけてな」

店じまいをして、寮へと帰る吉音を見送る。あれから、いろいろ相手をしてやったので、すっかり機嫌を直してくれたようだ。よはいうそれは、吉音の相手をするだけの暇な時間があったということで、なんとも嘆かわしい。

由真「あー、やだやだ。辛気臭い顔しちゃってさ」

悠「……由真?」

声に気づいてそちらを見ると、あきれたような顔をした由真が立っていた。その背後から、ひょっこりと唯ちゃんも顔をのぞかせる。

悠「やほっ。悠さんっ」

悠「唯ちゃんまで……どうかしたのかい?」

唯「ん~。ボクは別になにも……。ただ由真姉が悠さんの顔を見にいくっていうから、着いて来ただけだよ」

由真「ちょっと、なにその言い方?私は外の空気を吸おうとおもっただけで……」

唯「なら、わざわざここまで来る必要ないじゃん?」

由真「っ……そうよ!どうせ今日も客が来なくて辛気臭い顔してるだろうと思って見に来てゃったのよ!悪い?」

こんな顔をわざわざ見に来て、なにんが楽しいというのやら?

悠「別に、悪くはないが……そっちはうちと違って、今日も繁盛してたみたいだな」

由真「あったりまえじゃない。結花姉の淹れる紅茶とか美味しいケーキがあるだけでも十分なのに、私みたいな美少女が接客してるのよ?」

悠「自分でいうか、美少女って……」

いや、確かに可愛いとは思うがな。黙っていれば。

唯「一応ボクも頑張ってるんだけどな~」

由真「はいはい。もちろん唯も頑張ってくれてるのはわかってるって、でも私がいま言いたいのはそういうことじゃなくて……アンタさ、こんなジジ臭い店が流行るわけないんだから、諦めてウチの従業員になっちゃいなさいよ?」

悠「またその話しか」

ビシッと突き付けられた由真の人差し指を横にどけて、おれは小さく息を吐く。

由真「なによ?別に、この店に思い入れがあるわけじゃないんでしょ?だったらいいじゃない」

悠「そういう、わけにもいかんといっとろうが……」

由真「こんなお客のこない店を開けとくより、ウチで働いた方が、いい稼ぎになると思うけど?」

もっともすぎる意見に、返す言葉を失う。確かにうちの店は儲けなんて見込めないし、正直、ねずみやで働くというのも悪くないかもしれない。だが……。

悠「今のところ、ねずみやの世話になるつもりはない」

由真「どうして?」

悠「そりゃあ、数こそ少ないが、うちの店に入ってくれた人がいるからさ。これもなにかの炎なんだろうし、そういった人がいる限りは、贅沢言わずに頑張るつもりさ」

由真「なによそれ……ヒトがせっかく親切でいってあげてるのに」

唯「まっ、しょ~がないじゃん。悠さんには悠さんの考えがあるんだし。でも、気が変わったらいつでもいってねっ?ボクは悠さん大歓迎だからっ♪」

悠「ああ……うん。ありがとう」

無邪気に笑いかけてくる唯ちゃんに、愛想笑いをかえしておく。カッコつけていってはみたものの、店がこの調子じゃ、気が変わる日もそう遠くはないかもしれないが……。
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