ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ーねずみやー

暖簾をしまった後、おれは結花さんに頼まれてねずみやの新作ケーキの試食を手伝っていた。今回、結局なにもしてない、おれ……。

さっき小鳥遊堂をたずねてきた灯さんは土下座でもしそうな勢いで謝り始めた。最近、風前屋の客足が落ち込んでいるらしく、その憂さ晴らしで、ねずみやに嫌がらせをしていたそうだ。それでねずみやの評判が落ちれば、自分の店に客が流れてくるかもしれないという打算もあったのだろう。

小鳥遊堂に関しては、ねずみやの隣で利用しやすかったから巻きこんでしまったとのこと。とにかく迷惑をかけてしまって申し訳なかったと、ひたすら頭をさげられてしまった。あまりに必死に謝るものだから、なんかいたたまれなくなり、逆にこっちが申し訳なくなってくる。

別段、うちには被害があったわけではないし……。ねずみやとはすでに話しをつけたあとのようだし、それならおれがいうことはなにもない。半ば説得するような感じになりつつ、どうにか彼女に頭をあげてもらった。そして、これからは真面目に仕事を頑張ると宣言してさっていった。

いったい結花さんは、彼女にどんな話をしたんだろう。こうやって素直に本人が謝りに来るくらいなんだから、よほどうまく説得したんだろうけど……。まぁ、無事に片付いたんだから、それでいいか。

結花「きゃっ……!」

ケーキのデコレーションをしていた結花さんが小さな悲鳴をあげて、おれは我に帰る。

悠「あ、いちごが……」

なんとデコレーション用のいちごが胸の谷間に転がり落ちていこうとしている!!

結花「ごめんなさい、小鳥遊君。とってくれないかしら?」

悠「え、いや、その……」

とって差し上げたいのはやまやまだ。……っが、この状態からいちごをすくい上げるのはすなわち結花さんの胸の谷間に手をつっこむということで……

結花「両手がふさがってるのよ」

いや、それは分かりかねますが、テーブルに置けばいいじゃないですか?

悠「えーと……」

結花「あの……急いで?早くしないとどんどんおくに行っちゃうから」

悠「は、はい~ただいま~」

結花「やんっ……くすぐったい~♪」

これは……誘われてるのでしょうか?






ー新宿:小鳥遊堂ー

由真「あーもー!ウチはそういうお店じゃないってば!!」

男子生徒「ぐはっ!」

光姫「ふぅ……今日も平和じゃのぅ」

由佳里「はい~。詠美さまや平賀さんたちも頑張っていらっしゃいますからねえ」

悠「隣は戦場ですけどね」

ごたごたが終わって一夜もするとねずみやはいつもの調子だった。まぁ、昨日は結花さんに触れて、今日はおれも絶好調なわけなんだが。

吉音「むむっ?あたしの出番?」

悠「あの様子ならいつものだろ。由真なら大丈夫さ。」

吉音「なーんだ、つまんない」

悠「平和をつまんないなんていってたら罰が当たるぞ。」

っか、おれ自身は平和じゃなかったし……とはいえ、うちの店はもう少し騒がしくなってくれないもんだろうか。もちろん戦場騒ぎは御免だが。小鳥遊堂にきてくれるのは、未だに僅かな常連さんがほとんどだ。商売はそう簡単にいかないと、身に滲みて痛感させられる。
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