ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】
ー小鳥遊堂近く:物影ー
結花「小鳥遊君、寒くない?」
悠「はい。おれは大丈夫ですけど……結花さんは?」
結花「私も大丈夫よ。こうやって身体をくっつけてると、結構あったかいし」
悠「……そうっすね」
おれと結花さんは物影に身を隠して、小鳥遊堂の前にあ目安箱を見張っていた。角度を変えて覗きこめば、ねずみやの方まで見渡せる、なんとも都合のいい場所ではあるのだが……。ふたりで隠れるには少しばかり狭いので、おれと結花さんの身体が密着してしまっている。腕に感じる結花さんのぬくもりとやわらかさに、いやが上にも緊張してしまう。それに、匂いが……いや、こういうのは香りというべきか。鼻孔をくすぐる結花さんの甘ったるい香りに、さらに気分が落ち着かなくなる。女の子っていうのは、みんなこんなにもいい香りがするもんなんだろうか……。
結花「小鳥遊君?」
悠「はい!?」
いきなり声をかけられたことに驚いて上擦った声を漏らすと、結花さんが苦笑いして身体を小さく揺らす。
結花「声が大きいわよ」
悠「……すみません」
声を抑えて謝るおれに、結花さんは手に提げていたバックのなかから水筒を取り出して差し向けてくる。
結花「よかったら、飲む?」
カップを受け取ると、結花さんが手ずから注いでくれる。中身は香りとともにふわっと湯気が立つほどの熱い紅茶だった。それを飲むと、おなかの辺りからじんわり熱が広がっていくのがわかる。自覚をしていないだけで、ずいぶん身体は冷えていたらしい。結花さんが準備といって家に戻ったのは、これを用意するためだったのか。バッグのなかには他にもいろいろ入っているように見えるし、さすがとしか言いようがない。
悠「そういえば……結花さん、聞いても良いですか?」
結花「なぁに?」
悠「どうして結花さんは、由真みたいにおれのことを疑わなかったんです?」
結花「覗きの犯人じゃないかって?」
悠「はい。自分でいうのもなんですけど、犯人じゃないっていう証拠もないわけだし」
結花「んー……だって小鳥遊君なら、自分のした悪戯は素直に認めると思ったから。それに昨日、由真が押し掛けて行ったあと、うちの周りを見回ってくれてたでしょう?」
悠「どうしてそれを……」
結花「見かけちゃったのよ。たまたまだけど。まあ、そういったもろもろの理由があるから、私としては小鳥遊君を疑う必要うはないかなって」
結花さんはそういってにっこり笑うと、自分にも紅茶を注いで口に運んだ。よかった。結花さんに信用してもらえて。由真にも結花さんみたいに、少しは冷静な判断をしてくれればいいものを……。なんてことを思ってあきれていると、不意に結花さんの視線が鋭くなった。
悠「結花さん?」
結花「誰か来たわ」
慌てておれも店先に目を向けた。すると、こそこそと目安箱に近づいて来る人影を見つけた。悩みや問題を目安箱に入れに来たんだとしても、こんな時間に、あの様子は怪しすぎる。
悠「アイツが犯人か……」
結花さんに確認するように呟いてから、おれは相手を捕まえるべく動きだそうとした。
結花「待って」
悠「どうかしたんですか?」
結花「あの子は……」
雲間から差し込む月明かりに照らし出されたのは、小柄な女の子の姿だった。なんだかおどおどしていて、犯人と呼ぶのが少し躊躇われてしまう。
悠「知ってる子なんですか?」
結花「ええ。一応。灯さんていって、ちょっと離れたところで風前屋っていう喫茶店をやってるの。最近、あんまりお店の調子が芳しくないっていう噂をきいてたけど……そう。それで……」
結花さんはなにやら納得したみたいに、小さく呟きながらうなずいていた。その間に、女の子は目安箱になにかを入れて、今にも立ち去ろうとしている。
悠「結花さん、どうするんです?行っちゃいますよ?」
結花「……構わないわ。行かせてあげましょう」
悠「え?でも……」
結花さんの意図がわからずに戸惑ってしまう。そうこうしている内に、女の子の姿が夜の闇の中に消えて行ってしまった。
結花「ごめんなさいね。急に止めたりして」
悠「おれは構いませんけど……本当に良かったんですか?」
結花「ええ。犯人さえわかれば、あとはどうとでも……それに、犯人があの子なら穏便に事を済ませられそうだし」
悠「話しあいで解決できそうってことですか?」
結花「まあ、そんなところね。だから、この件は私に任せてもらえないかしら?」
悠「はあ……結花さんがそういうなら……」
なんだかよくわからないが、おれがでしゃばったところで事を荒立てるだけだろうし。あとは結花さんに任せることに決め、その日は解散となった。
結花「小鳥遊君、寒くない?」
悠「はい。おれは大丈夫ですけど……結花さんは?」
結花「私も大丈夫よ。こうやって身体をくっつけてると、結構あったかいし」
悠「……そうっすね」
おれと結花さんは物影に身を隠して、小鳥遊堂の前にあ目安箱を見張っていた。角度を変えて覗きこめば、ねずみやの方まで見渡せる、なんとも都合のいい場所ではあるのだが……。ふたりで隠れるには少しばかり狭いので、おれと結花さんの身体が密着してしまっている。腕に感じる結花さんのぬくもりとやわらかさに、いやが上にも緊張してしまう。それに、匂いが……いや、こういうのは香りというべきか。鼻孔をくすぐる結花さんの甘ったるい香りに、さらに気分が落ち着かなくなる。女の子っていうのは、みんなこんなにもいい香りがするもんなんだろうか……。
結花「小鳥遊君?」
悠「はい!?」
いきなり声をかけられたことに驚いて上擦った声を漏らすと、結花さんが苦笑いして身体を小さく揺らす。
結花「声が大きいわよ」
悠「……すみません」
声を抑えて謝るおれに、結花さんは手に提げていたバックのなかから水筒を取り出して差し向けてくる。
結花「よかったら、飲む?」
カップを受け取ると、結花さんが手ずから注いでくれる。中身は香りとともにふわっと湯気が立つほどの熱い紅茶だった。それを飲むと、おなかの辺りからじんわり熱が広がっていくのがわかる。自覚をしていないだけで、ずいぶん身体は冷えていたらしい。結花さんが準備といって家に戻ったのは、これを用意するためだったのか。バッグのなかには他にもいろいろ入っているように見えるし、さすがとしか言いようがない。
悠「そういえば……結花さん、聞いても良いですか?」
結花「なぁに?」
悠「どうして結花さんは、由真みたいにおれのことを疑わなかったんです?」
結花「覗きの犯人じゃないかって?」
悠「はい。自分でいうのもなんですけど、犯人じゃないっていう証拠もないわけだし」
結花「んー……だって小鳥遊君なら、自分のした悪戯は素直に認めると思ったから。それに昨日、由真が押し掛けて行ったあと、うちの周りを見回ってくれてたでしょう?」
悠「どうしてそれを……」
結花「見かけちゃったのよ。たまたまだけど。まあ、そういったもろもろの理由があるから、私としては小鳥遊君を疑う必要うはないかなって」
結花さんはそういってにっこり笑うと、自分にも紅茶を注いで口に運んだ。よかった。結花さんに信用してもらえて。由真にも結花さんみたいに、少しは冷静な判断をしてくれればいいものを……。なんてことを思ってあきれていると、不意に結花さんの視線が鋭くなった。
悠「結花さん?」
結花「誰か来たわ」
慌てておれも店先に目を向けた。すると、こそこそと目安箱に近づいて来る人影を見つけた。悩みや問題を目安箱に入れに来たんだとしても、こんな時間に、あの様子は怪しすぎる。
悠「アイツが犯人か……」
結花さんに確認するように呟いてから、おれは相手を捕まえるべく動きだそうとした。
結花「待って」
悠「どうかしたんですか?」
結花「あの子は……」
雲間から差し込む月明かりに照らし出されたのは、小柄な女の子の姿だった。なんだかおどおどしていて、犯人と呼ぶのが少し躊躇われてしまう。
悠「知ってる子なんですか?」
結花「ええ。一応。灯さんていって、ちょっと離れたところで風前屋っていう喫茶店をやってるの。最近、あんまりお店の調子が芳しくないっていう噂をきいてたけど……そう。それで……」
結花さんはなにやら納得したみたいに、小さく呟きながらうなずいていた。その間に、女の子は目安箱になにかを入れて、今にも立ち去ろうとしている。
悠「結花さん、どうするんです?行っちゃいますよ?」
結花「……構わないわ。行かせてあげましょう」
悠「え?でも……」
結花さんの意図がわからずに戸惑ってしまう。そうこうしている内に、女の子の姿が夜の闇の中に消えて行ってしまった。
結花「ごめんなさいね。急に止めたりして」
悠「おれは構いませんけど……本当に良かったんですか?」
結花「ええ。犯人さえわかれば、あとはどうとでも……それに、犯人があの子なら穏便に事を済ませられそうだし」
悠「話しあいで解決できそうってことですか?」
結花「まあ、そんなところね。だから、この件は私に任せてもらえないかしら?」
悠「はあ……結花さんがそういうなら……」
なんだかよくわからないが、おれがでしゃばったところで事を荒立てるだけだろうし。あとは結花さんに任せることに決め、その日は解散となった。