ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

だが、完全には引いてくれず、不服げに唇を尖らせる。

由真「証拠は?」

悠「……証拠?」

由真「アンタが犯人じゃないって証拠はあんの?」

悠「うーん……」

そういわれると、証明するのは少し難しい。こっちでは独り暮らしのおれに、アリバイなんてないようなものだし……。

由真「信じて欲しかったら証拠を見せてよ。それができないなら私の前に顔を出さないで。犯人扱いされたくないんだったらね」

由真はそう言い残して、店へと戻っていってしまった。

悠「証拠か……」

吉音「なんか大変なことになっちゃてるね~?」

悠「ああ、まったくだ。おれが覗きの犯人だなんて……」

吉音「ううん。そのことじゃなくて、周り」

どういう意味かと思って周りに目を向けると……。

悠「なっ!?」

道を行きかう人たちが足を止めて、なぜかこちらに注目していた。おれと目が合うとあわてて去っていくが、その表情は一様に気まずそうだった。

吉音「みんな、今の騒ぎをみてたみたいだよ」

悠「なんだと?」

吉音「だって、ふたりとも大きな声でいいあってるんだもん。みんな気になっちゃったんだよ」

悠「……ってことは、なにか?由真の言葉を信じた奴には、おれが覗きの犯人だと思われてるかもしれないと?」

吉音「んー、どうだろ?そこまでちゃんと聞いてた人がいたかはわかんないけど……どっちかっていうと、なんか痴話喧嘩みたいだったから注目浴びてたって感じ?」

悠「あー?痴話喧嘩?」

吉音「うん。だって人目もはばからないで言い合っちゃうなんて、カップルっぽいでしょ?」

悠「いや、だからって……」

痴話喧嘩なんて誤解されても困る。とはいえ、覗きの犯人と思われても困るが……。何にせよ、訳が分からん。手紙のことといい、覗き騒ぎといい、いったいなにがどうなってるんだ?




「……もっとあばれてくれればよかったのに。男の方が、意外と冷静なのが問題ね。なら、次はもっと男の方を攻めるべきかしら?」





ー小鳥遊堂:室内ー

悠「はぁ~……」

無駄に疲れた一日だった。いや、店はいつも通り閑古鳥が鳴いていたわけだが、それ以外のことがあり過ぎた。昨日はあまり深刻に考えてはいなかったが、こんなことになるなんてな。どうする?まずは手紙の差出人から着きとめるか?だが由真を覗いた犯人も気になるし……。いや、そもそもこれは、両方とも同じ人間が関わっているんじゃ……。んー……。こんな時、ぴったりの音楽でもあれば、頭の中を整理しやすいんだがな……。気分がのらないときは本当に考えがまとまらない。

「ごめんくださいな」

悠「あー?今の声は……はい、ちよっと待ってください」

返事をして、慌てて玄関に向かう。すると、そこに待っていたのは……。

結花「こんばんは。少しいいかしら?」

悠「はい……どうぞ」

玄関で立ち話もなんなので、挨拶もそこそこに、部屋にあがってもらうことにした。

結花「お邪魔します」

優雅な足取りでおれのあとをついて来た結花さんが、部屋に足を踏み入れたところでクスッと笑う。

悠「なんですか?」

結花「あ……ごめんなさい。つい……」

悠「つい?」

結花「こんなふうに、男の子の部屋に上がらせてもらうなんて初めてだから、ちょっと楽しみで……」

悠「はぃ!?」

当たり前のようにあがってもらってしまったが、そんなふうにいわれると、とたんに緊張してきてしまった。見られて困るようなモノは……出てないよな?とりあえず座布団を勧めて、お茶を準備して……。
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