ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

悠「またか」

あくる日、目安箱を確認すると、またしても手紙が入っていた。

【やっぱりどう考えても、風呂を覗いてたのはアンタとしか思えないんだけど?まさか、誰かに頼んだの?やり方が卑怯じゃない。この変態!覚えてなさいよ!】

内容だけ見たら、由真が昨日のことについて、文句をかき殴ったように思えなくもない。だが、どう考えても由真が差出人だとは思えない。昨日、自分でもいっていた通り、由真は文句があれば直接いってくるタイプの人間だ。実際、覗き騒ぎの直後、おれの部屋まで乗り込んでくるくらいなんだから、相当な気の強さだ。その由真が、こんな手紙を出すはずがない。

でも、そうなるとこの手紙はいったい誰が……

吉音「うっそー!?悠ってば由真ちゃんのお風呂覗いたの!?いっけないんだー!」

悠「……あー?」

気がつくと、すぐ隣に吉音の顔があった。

吉音「覗きなんかしちゃダメだって。犯罪だよ、犯罪」

悠「いや、違っ……これはだな……」

吉音「くふふふふっ。ま、悠も男の子だもんね。女の子の裸がみたいって気持ちは分からなくもないけど。でも、それならあたしに言ってくれればよかったのに。いいよ?悠にだったらあたし、見せてあげても」

悠「はあっ!?お前、いきなり何いってんだっ!?っか……え、いいの?」

吉音「あたしの裸じゃ物足りない?由真ちゃんよりも胸とかあると思うんだけど?」

悠「それは確かに……」

由真「アンタ、比べられるほど私の胸じっくり見たことあるわけ?」

悠「なっ!?由真!?」

いつから居たのか、ゆらりと佇む由真に驚き後ずさる。

悠「やっぱりアンタ、昨日覗いてたのね!」

悠「違うって!誤解だ!だいいち、そんなの服のうえからでもわかるだろ!」

由真「なんですって!!」

ビュパッ!
悠「うおっ!?」

咄嗟に屈んだ瞬間、頭上をものすごい勢いで由真の足が通り過ぎていった。ノーモーションで、なんて蹴りを……。

由真「アンタなんか信じるんじゃなかった。この覗き魔!」

悠「だから誤解だって。途中から話しに入ってきて、勝手に勘違いするなよ」

由真「勘違い?ならコレはなんだっていうのよ!」

おれはその時になって、由真が封筒を手にしていることに気づいた。由真はその封筒の中から紙きれを取り出し、おれに突き付けてくる。ソレを受け取り、目を通してみたわけだが……。

【いかがわしく男に媚びながら、その一方で平気で客を蹴り飛ばす無法喫茶ねずみやへ。この写真をバラまかれたくなかったら店を畳んで、場所を小鳥遊堂に明け渡せ。】

悠「あー?なんだこりゃ?」

由真「ウチのポストに入ってたの。私がお風呂に入ってるトコの写真といっしょに」

悠「それって昨日の……」

由真「ええ、そうよ。昨日、覗いてたやつの仕業だわ。ようするにアンタってことよね?」

悠「どうしてそうなるんだよ!昨日はちゃんと、おれじゃないって納得してくれたんじゃないか? 」

由真「アンタが剣魂を持ってないってことはね。でも、誰かに覗かせたって可能性があるじゃない」

悠「どうしてそんな面倒なことを……っていうか、おれがそんなことするわけないだろ?」

由真「なら、なんで『小鳥遊堂に明け渡せ』なんて書いてあるのよ?」

悠「知るか。おれが聞きたいくらいだ。」

由真「あくまでシラを切るってわけ?」

悠「なあ由真。落ち着けって。もし本当に店を奪う気ならこんなおおっぴらにバレる手なんか使わないっての。昨日から、なにかおかしいと思わないか?」

由真「それは……」

少なからず思う所があったのか、由真がわずかに口ごもった。
25/100ページ
スキ