ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー新宿:小鳥遊堂ー

悠「なんじゃこりゃ?」

ソレを目にした瞬間、思わず声をあげてしまった。意味がわからず、改めてその手紙を読み直す。

はな「?」

【隣に同じような店を出して、しかも騒いで営業妨害してくる男がいまーす。ゴロツキが集まって来てて、ウチの常連さんが怖がってるんですよねー。ホント迷惑だから、どっか行っちゃってくれないかしら?あ、どうしてもつて頭を下げるなら、ウチと合併させてあげても良いけどね。】

悠「なんじゃこりゃ?」

読み直しても、口から出たのは同じ言葉だった。本当に何なんだこれは?その手紙が入ってたのは目安箱だった。吉音がいつものように寝ていたので、とりあえずおれが目を通しておこうと思った訳だが……。その内容に、唖然とするしかない。

はな「それって……」

悠「……」

チラリと隣の店に目をやる。内容から考えて、差出人は……。いやいや。由真だったら、手紙なんて回りくどいしなで、直接いってくるはずだ。実際今までだって何度かいわれてるんだし。それにおれは営業妨害なんてしたことないし、由真だってうちの客をゴロツキ(否定は出来ない)なんて言うはずがない。だが、それにしたってこの内容は、さすがに……

はな「さすがに気になるですね」

悠「あぁ……。」

まさか本当に由真が?そんなことがあるとは思えないが、一応、確認しておくか。






ーねずみ屋ー

由真「いらっしゃいませー♪って、なんだアンタだったの?」

ドアから顔をのぞかせたおれを見るなり、営業スマイルはどこえやら、由真はつまらなそうに目を細めた。

悠「なあ、ちょっといいか?」

由真「はー?忙しいのが見て分かんないの?」

悠「少しだけでいいからさ」

由真はため息を吐きながら、いかにも仕方なさそうな顔をして店の外に出てくる。

由真「で、なに?」

悠「いや、その……」

呼びだしたはいいが、なんて言ったらいいもんだろう?あの手紙が由真の出したものでなければ、言いがかりをつけるみたいになってしまうし……おれがそんなふうに思って考え込んでいると、由真が様子を窺うように小鳥遊堂へと目を向けた。

由真「アンタの店は相変わらずね。だからって、ウチにヒマつぶしに来るのはやめてくんない?」

悠「ヒマつぶしって……そんなんじゃないって」

由真「じゃあ、なんのようなのよ?あ、もしかして経営厳しいから、ようやくウチと合併する気になったとか?」

悠「は?」

由真「それならそうっていいなさいよ。アンタの店の状況なんて、外から見たってわかるんだから、恥ずかしがることじゃないわ」

悠「…………」

これは……やっぱり由真は関係なさそうだな。面と向かってここまでズカズカいう奴が、あんな手紙を出すとは思えない。

由真「まあ、男では欲しいところだし、アンタみたいなのでも役に立つだろうから、どうしてもっていうなら……」

悠「由真、ちょっとこれを見てくれないか?」

由真「なによ?」

話を遮って手紙を出した。由真はそれを受け取り、内容に目を通して首をひねる。

悠「……」

由真「なにこれ?」

悠「うちの目安箱に入ってたんだ。心当たりはないか?」

由真「はー?アンタまさか、私がこれを出したと思って聞きに来たわけ?」

悠「いや。あくまで、もしかしたらと思っただけで……」

由真「バカらしい。なんで私がそんなことしなくちゃいけないのよ?文句があるなら直接いうし……そもそも、こんな告げ口みたいな真似、私、大っきらいなんだけど」

悠「疑って悪かったって。そんなに怒るなよ」

突き返された手紙を受け取りつつ、由真をなだめる。しかし、そうなるとこの手紙は、いったい誰が……。差出人の名前はもちろん、店名も書いてないし、文面から調べようにも情報が足りない。それに、もし仮に差出人がわかったとしても、おれや吉音にどうしろと……。

由真「ねえ、用事はそれだけなの?」

悠「あー……おう。悪かったな、時間取らせちまって」

由真「まったくよ。この埋め合わせは、いつか必ずしてもらうからね」

由真はおれに顔を近づけてそういうと、スカートの裾を翻して店のなかへと戻っていった。やれやれ。とんだ無駄足だったな。しかしまあ、この手紙をどうしたもんだろう……。




「……あの内容じゃ、この程度か……ならつぎは……」
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