ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【4】

ー大江戸学園内:武道場ー

詠美「お疲れさまでした」

今日の鍛錬を終え、武道場から出ていく徳河さん。っと、そうだ。おれは慌ててその背中を追った。

悠「あのー、徳河さーん!」

詠美「悠?なにか用かしら」

悠「あー、用っていうより、少しお伝えしておきたいことがありまして……。あ、今お時間大丈夫ですか?」

詠美「時間は問題ないわ。それより悠、あなた何をそんなに慌てているの、少し落ち着いたら?」

悠「うっ、ごめんなさい。そうします……」

深く息を吸ってゆっくりと吐く。徳河さんと話すときって、どーも緊張しちゃうんだよなぁ……。

詠美「落ち着いたかしら?」

悠「おかげさまで。それでなんですけど、実は徳河さんに感謝の気持ちを伝えたいと思いまして」

詠美「感謝?ああ、さっきの手合わせのことなら気にする必要ないわよ。私も鍛錬になったのだし」

悠「いえ、今はそれと別の話しです。せっかくこうして顔を合わせてるんだし、直接おれらの気持ちを伝えておこうと思いまして」

それはもちろん目安箱の投書にあったことについてだ。

詠美「悠たちの気持ち?」

悠「徳河さん。ありがとうございます」

詠美「え?」

悠「将軍が失踪していろいろ大変ななかいつも頑張ってくださって。おれたち生徒は感謝してるんです。」

詠美「それは……執行部として当然のことをしているだけよ」

悠「それでもです。徳河さんなら、将軍不在の今の状況もうまくまとめてくれるって、みんな期待して、頼りにしているんです。だから、ありがとうございます、です」

詠美「……そう。こちらこそ、ありがとう」

徳河さんは微笑を浮かべてそう返してくれた。徳河さんの笑った顔、とっても綺麗だ…………。って、おれはなにを……鼻の下が伸びる前に、顔の筋肉に力を込める。バカ面をさらすのドントストップ!こうして直接お礼を言える機会なんてめったにあるもんじゃない。少し恥ずかしかったけど、しっかり伝えられて良かった。

悠「っと、そうだ。もう一つ、前から気になることがあるんですけど」

詠美「なにかしら?」

悠「吉音のことなんですが……」

詠美「よ、徳田さんがどうかしたの?」

悠「吉音とは従姉妹だと聞きましたけど、その、どうして突き放すようなことをおっしゃったんですか?」

あのときの徳河さんは、傍目にも吉音との会話を避けているように見えた。

詠美「……別に、従姉妹だからといってべったりでなくとも構わないでしょう?」

悠「それはそうです、ですが」

詠美「どうしてそんなことを聞くの?」

悠「吉音がことあるごとに徳河さんのことをほめちぎるので、少し気になって」

詠美「……私が頼んだことではないわ。あの子はあの子、私は私よ」

どこか煮え切らない返事だ……。やっぱり二人のあいだにはなにかあるのだろうか……。徳河さんはそれ以上話したくないようで口を噤んでしまう。

悠「あの……」

悠「……悠は、徳田さんとよく一緒にいるのよね」

悠「あー……吉音はうちの用心棒もしてもらってるし、クラスも一応いっしょだし」

詠美「そう」

徳河さんがおれの全身をじっと見つめる。その値踏みするような視線に思わず後ずさる。

悠「徳河さん?」

どことなく気まずい空気が漂う。なんだ、この居心地の悪さは……。

詠美「なんでもないわ、……よろしく」

悠「あ?」

そのひと言を残した徳河さんは、あっという間に去っていった。それは本当に突然で、別れの挨拶をする暇さえなかった。
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