ｰ新宿:小鳥遊堂ｰ

男子生徒A｢悪いが、こっちは遊びじゃねーんだ。いつまでもお前の茶番に付き合っちゃいらんねー。とっとと帰んな、お嬢ちゃん……怪我しねえうちによ｣

そういって、チンピラのリーダーらしき男は、大神さんに向かって刀を突き付ける。しかし彼女は相変わらず落ち着きを払った様子で、髪の毛をいじったりしている。

伊都「あら、悪いのは人相だけかと思ったら、態度も悪いのね。何なのこのお店は……せっかくやってきたお客を、追い返そうっていうの?めちゃくちゃですわ……ねぇ、ダイちゃん?」

ダイゴロー『チャン!!』

男子生徒D「いや、めちゃくちゃいってるのは、お前の方だろうが!!」

うむ、その点に関してだけは、チンピラに同意だな。

男子生徒B「俺たちをコケにするとどうなるか、教えてやろうか、ええっ!?」

その時、チンピラどもの関心が完全に大神さんに移ったのを、おれは見逃さなかった。

悠「信乃!いまだ、こっちへ……!」

信乃「……え?あっ、はい!!」

チンピラどもの隙をついて、おれは信乃の腕をぐいぃっとこちらへ引っ張った。

男子生徒E「あっ……!?こ、このやろう、待ちやがれ!!」

悠「待てといわれて、待つ馬鹿いないっての!」

信乃の身体を引っ張った余力で、おれ達は店の外へ転がるように飛び出た。

吉音「いいよ天国ちゃん!こっちこっち!!」

平和「悠さん、お見事でござる!」

信乃「みんな、心配掛けてごめんなさ……す、すまねぇ!」

つばめ「いいんですわ、そんなこと……とにかく、無事で何より……」

男子生徒A「馬鹿やろう!!なにやってんだ、てめえは!?」

男子生徒E「す、すまねぇ兄貴……」

そうして、切り札を失ったチンピラ達は、ゆっくりと大神さんの方に向き直った。

伊都「あらぁ……怖そうなお顔。そんなんじゃ、ますますお客が離れていきますわよ?」

男子生徒A「あぁ、アンタのおかげで、計画がめちゃくちゃになったもんでね……」

伊都「ふぅん……それで、どうするの?」

リーダー格の男に続いて、残るチンピラ達も刀を抜いた。って、大神さんもそんな落ち着きはらってる場合か?!何なんだ、あの余裕は?

男子生徒A「野郎ども、やっちまえ……!!」

そういったチンピラどもは、一斉に彼女に襲いかかった!!

悠「危ないっ……!!」

いかに彼女が自信家でも、全員の斬撃を一度に受けるなんて……!?

男子生徒B「……なっ!」

男子生徒C「……なにいっ!」

固唾を飲んで見守るおれの前。大神さんの周囲の地面が突然盛り上がり、盾のようになってすべての刀身を防いだ。

伊都「ふふっ……いい子ね、ダイちゃん♪」

ダイゴロー『チャン!』

あれが、大神さんの剣魂の力か……。そうして彼女は、ようやく縁台からゆっくりと立ち上がった。

伊都「わかりましたわ……要するに、遊んでくださるのね。茶屋の余興にしては、なかなか面白くてよ、悠」

悠「いや、だからおれは関係ないんで……」

一瞬こちらにウインクを投げかけると、すらりと刀を抜いた。

伊都「拝神夜……まいりますわ」

ろくに構えもせず、単に刀をぶら下げて立っているだけなのに、恐ろしいほどの殺気が立ちあがる。チンピラどもも気圧されたのか、じりじりと後ずさる。